技能実習計画の修了が近づいているのに、特定技能1号への在留資格変更の許可が下りない。この状態で生じるのが、待機期間です。
多くの解説は、ここで企業側の法的リスクを説明します。しかし実務で最初に起きるのは、別のことです。
本人の収入が、途絶えます。
この記事は、受入れ企業と監理団体の実務担当者に向けて、待機期間に何が起きるのか、そしてそれをどう防ぐのかを整理するものです。
結論:待機期間は、本人の無収入から始まる
待機期間に起きることは、2つあります。
① 本人が働けず、収入がなくなる
② 企業が誤って働かせると、不法就労になる
そして、この2つは無関係ではありません。①が②の引き金になります。
無収入の本人が「働かせてほしい」と言い、人手の足りない現場がそれに応じる。悪意のない善意から、法令違反が生まれます。
不法就労は、法令を軽視した結果ではなく、目の前の困りごとに応じた結果として起きます。
待機期間に、本人の側で何が起きるか
まず、収入がゼロになります。
数週間から1か月以上、給与が発生しません。そのあいだも支出は止まりません。家賃や光熱費は発生し、本国への送金も予定されています。
そして、本人にとって重要な点があります。自分に落ち度がないのに、収入が消えます。試験にも合格し、勤務態度にも問題はない。それでも手続きが間に合わなかったという理由だけで、生活が立ち行かなくなります。
送金が止まれば、本国の家族の生活にも影響します。この構造については金銭トラブルをどう防ぐかで整理しています。
さらに、本人には何が起きているのか分かりません。説明がなければ、「会社が手続きをしてくれないから働けない」という理解になります。待機期間が離職や不信の起点になるのは、この段階です。
なぜ、働かせてしまうのか
企業が意図的に法令を無視することは、ほとんどありません。それでも、働かせてしまう場面は生じます。理由は3つあります。
本人が働きたがる
収入がないのですから、当然です。「少しだけでも」という申し出を断るのは、人情として簡単ではありません。
現場に人が足りない
シフトが組めない、納期が迫っている。そして現場の管理者は、在留資格の細部を知りません。「いつもどおり来ている人」を、いつもどおり使ってしまいます。
「申請中だから大丈夫」と考えてしまう
実務では、在留カードの期限も切れ、特例期間に入っていることが多いのが実情です。申請は受理されており、本人は適法に日本にいる。だからこそ、そのまま働けると誤解されます。
ここが最も誤解の多い部分です。特例期間は、在留を継続できる仕組みであって、活動の範囲を広げるものではありません。
在留期間の満了日までに変更許可申請をしていれば、審査中も一定期間は引き続き在留できます。ただし、この期間に行えるのは従前の在留資格に基づく活動です。
そして在留資格「技能実習」は、認定を受けた技能実習計画に基づいて活動するための資格です。計画が修了していれば、行える活動がありません。
つまり、適法に日本に在留しているのに、働くことはできないという状態が生じます。
この状態で就労させれば、法令違反となるおそれがあります。そして責任は本人だけでなく、就労させた企業側にも及びます。
【要確認】特例期間の取扱いおよび可能な活動の範囲は、個別の状況によります。判断に迷う場合は、地方出入国在留管理局または専門家にご確認ください。
だから、早く着手する
待機期間を防ぐ方法は、実のところ一つしかありません。移行が見込まれた時点で、準備を始めることです。
技能実習2号の修了時期は、あらかじめ分かっています。突然決まるものではありません。にもかかわらず準備が遅れるのは、日程が誰の担当なのかが曖昧なまま進むからです。
実務としては、修了時期から逆算した着手日を、受入れの管理表に書き込んでおくのが確実です。期限管理の方法は受入れを年間で管理する方法で整理しています。
初めて特定技能を受け入れる場合は、MWO申請も必要です
一点、フィリピン人材に固有の論点があります。
技能実習は監理団体を介した受入れですが、特定技能は企業と本人の直接雇用です。そのため、自社で特定技能の受入れを行うのが初めての場合、企業としてのMWO申請が必要になります。技能実習での枠組みは、そのままでは使えません。
これは日本側の在留資格変更を止めるものではありませんが、フィリピン人特定技能者を受け入れる企業にとっては必須の手続きです。移行が見込まれた段階で、日本側の準備とあわせて着手しておくのが確実です。詳細は技能実習の受入れとMWO申請で扱っています。
どうしても間に合わないなら、特定活動を使う
準備が遅れてしまった場合、特定活動(6月・就労可)は有効な選択肢です。
在留期間の満了日までに必要書類を揃えられないなど、移行の準備に時間を要する場合に、特定技能1号で就労を予定している受入れ機関で就労しながら準備を進められる在留資格です。
就労が可能なので、待機期間そのものを作らずに済みます。これが最大の利点です。
押さえておきたい点が4つあります。
期間は6か月
令和6年1月9日以降の申請から、従前の4か月より延長されました。更新は、やむを得ない事情がある場合に1回限り認められます。
試験の要件がある
技能試験および日本語試験に合格していることが必要で、技能実習2号を良好に修了した場合は免除の対象です。免除にも該当せず試験にも合格していない場合、この特定活動は使えません。
通算在留期間に算入される
特定活動で在留した期間は、特定技能1号の通算在留期間(上限5年)に含まれます。6か月使えば、特定技能としての期間は4年6か月になります。
早く判断する必要がある
出入国在留管理庁は、この特定活動への変更申請が多く行われており、審査期間の長期化につながっていると注意喚起しています。比較的、申請してから直ぐに申請が下りるといわれていますが、特定活動の申請においても期限直前の申請ではなく余裕を持ったスケジュールを組みましょう。
【要確認】分野ごとの要件は最新の案内をご確認ください。
特定活動は、間に合わないと分かった時点で早く選ぶ手段です。
それでも待機期間が生じてしまったら
第一に、絶対に働かせないこと。
そして、これを人事だけでなく現場に伝えてください。現場の管理者が知らなければ、いつもどおり作業に入れてしまいます。「この期間は就労させられない」という事実を、指示を出す立場の全員に共有する必要があります。
第二に、本人に理由を説明すること。
何が起きていて、いつまで続く見込みで、なぜ働けないのか。本人の落ち度ではないことを明確に伝えてください。説明がないまま収入が止まれば、会社への不信につながります。
第三に、生活面の手当てを検討すること。
寮費の徴収時期を調整する、食事を提供するなど、できる範囲の対応があります。金銭の貸付については慎重な検討が必要です。この論点は金銭トラブルをどう防ぐかで整理しています。
よくある間違い
「申請中で特例期間だから働ける」と考える
特例期間に行えるのは従前の在留資格の活動です。計画が修了していれば、行える活動がありません。
現場に伝えない
人事が把握していても、指示を出すのは現場です。
本人の「少しだけなら」という申し出に応じる
本人が望んでも、就労させられないことに変わりはありません。
特定活動を期限直前に申請する
審査期間の長期化が指摘されています。間に合わない可能性もありえます。
待機期間の説明を本人にしない
無収入の理由が分からない状態は、不信と離職の起点になります。
修了時期が分かっているのに、着手を先延ばしにする
技能実習2号の修了時期は、あらかじめ推測できます。
まとめ
技能実習から特定技能への切り替えで生じる待機期間は、企業にとっては法的リスク、本人にとっては生活の問題です。そして、無収入という状態そのものが、不法就労の引き金になります。
防ぐ方法は、早く着手すること以外にありません。修了時期は最初から分かっているのですから、逆算した着手日を管理表に書き込んでおくことです。
そして、それでも間に合わないと分かったときは、早い段階で特定活動を選んでください。
技能実習からの移行の全体像は技能実習の受入れとMWO申請を、育成就労への制度移行を含めた今後の見通しは育成就労でフィリピン人を受け入れる準備をあわせてご確認ください。
本記事は2026年7月時点で公表されている情報に基づく一般的な整理であり、個別の申請の可否や法的判断を保証するものではありません。制度の運用は変更されることがあります。実際の手続きにあたっては、出入国在留管理庁など各機関の最新情報をご確認いただき、必要に応じて専門家にご相談ください。
主な参照先:出入国在留管理庁「特定技能関係の特定活動(「特定技能1号」への移行を希望する場合)」

