介護分野は、フィリピン人材の受入れが最も進んでいる領域のひとつです。人柄と介護適性への評価は高く、「フィリピン人の介護スタッフを採用したい」という施設は年々増えています。
ところが、いざ採用を進めると、多くの施設が同じ場所でつまずきます。「候補者が試験に合格した。あとはビザを申請すれば入職できるはず」——この見積もりが、フィリピン人の場合はズレるのです。日本の一般的な特定技能の解説記事には書かれていない工程が、間に挟まっているためです。
この記事では、特定技能(介護分野)でフィリピン人を受け入れるときの流れを、日本側の要件とフィリピン側の手続きの二本のレールとして、一つの時間軸で整理します。
結論:試験合格とビザ申請の間に「MWO手続き」が挟まる
- 日本側の要件(試験・協議会・人数枠)は、国籍を問わず共通です。ここは一般の解説どおりです。
- ただしフィリピン人の場合、フィリピン政府の海外就労制度により、受入れ企業がMWO(駐日フィリピン移住労働者事務所)への申請を行い、認証を受ける必要があります。この手続きに3か月〜半年程度かかります。
- 問題は、この工程が試験合格からビザ申請・入国までの間に挟まることです。ここを知らずに「合格したから3か月後には入職」と計画すると、ズレが生じることになります。
- 介護は、EPA・技能実習・特定技能(介護分野)・在留資格「介護」という複数の受入れルートが並存する分野です。どのルートかによって、フィリピン側の手続きの通り方も変わります。
日本側の要件を満たすことと、フィリピンが送り出しを認めることは、別の手続きです。介護の採用計画は、二本のレールで引いてください。
日本側①:本人が越えるべき3つの試験
特定技能(介護分野)は、他分野より試験が1つ多いのが特徴です。
- 介護技能評価試験
- 介護日本語評価試験(介護分野だけの追加試験です)
- 日本語試験(国際交流基金日本語基礎テスト、または日本語能力試験N4以上)
このうち1と2は同日に受験でき、フィリピン国内でも受験可能です。つまり、来日経験のない現地の候補者を、現地で試験を通してから採用する——というルートが介護では太く開かれています。フィリピンで採用活動をする場合、候補者の受験計画も採用スケジュールの一部になります。
なお、介護分野の技能実習2号を修了した方、介護福祉士養成施設を修了した方、EPA介護福祉士候補者として在留期間(4年間)を満了した方は、試験が免除されます。すでに日本にいるフィリピン人技能実習生からの移行では、試験のステップを飛ばせることになります。
日本側②:受入れ施設側の要件
施設側にも、介護分野固有の要件があります。詳細な解説は公的機関の情報に譲り、ここでは採用計画に影響する3点だけ押さえます。
- 介護分野における特定技能協議会への加入。在留資格の申請前に入会し、入会証明書の発行を受ける必要があります。入会費・年会費は無料です。要確認
- 人数枠。1事業所で受け入れられる特定技能外国人は、日本人等の常勤介護職員の総数までという上限があります。
- 業務範囲。従来、訪問系サービスは対象外でしたが、2025年に一定の要件(実務経験1年以上等)を満たす場合に解禁されました。訪問介護で受け入れたい場合は、追加の要件を必ず確認してください。要確認
フィリピン側:MWO手続きはどこに挟まるのか(ここが本題です)
ここからが、一般の介護解説には書かれていない部分です。
フィリピンは、自国民の海外就労を政府が管理する制度を持っています。フィリピン人を雇う日本企業は、日本の在留資格手続きとは別に、次のフィリピン側手続きを通る必要があります。
- 送出機関(フィリピン政府認定のエージェンシー)との提携
- MWOへの申請(企業情報・求人情報の登録、雇用契約の認証。書類の公証も必要です)
- DMW(移住労働者省)への登録
- 本人のOEC(海外雇用許可証)取得——これがないと、フィリピンの空港で出国できません
この一連の手続きに、実務の目安で3か月〜半年かかります。そして重要なのは、MWO申請は候補者が決まる前(または並行して)企業側が進められることです。「試験合格を待ってから着手」すると、合格からさらに数か月待つことになります。逆に、採用の意思が固まった時点でMWO申請を始めておけば、合格とほぼ同時にビザ申請へ進めます。
MWO手続きの全体像はMWO(駐日フィリピン移住労働者事務所)とはで、申請から認証までの流れはMWO申請の提出方法と審査の流れで解説しています。
ルートで変わるフィリピン側の通り方
介護は、受入れルートが複数並存する分野です。フィリピン側手続きの観点で整理します。
| ルート | 日本側の枠組み | フィリピン側の手続き |
|---|---|---|
| 特定技能(海外から採用) | 3試験に合格 | 送出機関経由でMWO申請〜OECのフルコース |
| 特定技能(国内の技能実習生から移行) | 試験免除(介護2号修了) | 在留資格変更に伴い、フィリピン側の契約認証手続きが別途関係します |
| EPA(経済連携協定) | 介護福祉士候補者として就労・研修 | EPAは政府間の枠組みで、窓口・手続きの通り方が特定技能と異なります |
同じ「フィリピン人の介護人材」でも、ルートによってフィリピン側の通り道が違う——ここを混同すると、不要な手続きをしたり、必要な手続きを飛ばしたりします。自社がどのルートで受け入れるのかを最初に確定させることが、計画の出発点です。
入職までのモデルスケジュール(海外から採用する場合)
実務の目安を、時間軸で並べます。
- 採用方針の決定・送出機関との提携(〜1か月)
- MWO申請の準備・提出(書類作成・公証を含め1〜2か月)+ 並行して候補者の募集・試験受験
- MWO審査〜DMW登録(2〜4か月)
- 在留資格認定証明書(COE)の申請・交付(1〜3か月)※協議会加入はこの前までに
- 査証申請・OEC取得・出国前手続き(2週間〜1か月)
- 入国・入職
全体で半年〜10か月程度を見込むのが現実的です。ポイントは、2の段階でMWO申請と候補者の試験を並行させること。これが最も時間を圧縮できる組み方です。要確認所要期間は時期・案件により変動します。
よくある間違い
- 「試験合格=あとはビザだけ」と考え、MWO手続きの存在を知らずに入職日を約束する。最も多く、最も痛いつまずきです。
- MWO申請を候補者決定後に始める。企業側の手続きは先行着手できます。
- EPA・技能実習・特定技能(介護分野)・在留資格「介護」の違いを曖昧なまま進める。ルートでフィリピン側の通り方が変わります。
- 協議会加入を在留資格申請の直前に思い出す。申請前の入会が必要です。
- 訪問系サービスに従事させる予定なのに、追加要件を確認していない。解禁は条件付きです。
まとめ
フィリピン人を特定技能(介護分野)で受け入れる計画は、「日本側のレール(3試験・協議会・人数枠)」と「フィリピン側のレール(MWO申請〜OEC)」の二本を、最初から一つの時間軸に載せて引くのが基本です。
とりわけMWO手続きの3か月〜半年は、知らなければ計画ごと崩れ、知っていれば試験と並行させて吸収できる時間です。介護の現場は入職日から逆算して動いています。だからこそ、フィリピン人採用では「フィリピン側の工程を知っているかどうか」が、そのまま採用計画の精度になります。
受入れ手続き全体のどこに何があるかは、MWO手続き完全ガイドから確認できます。
本記事は情報提供を目的とした一般的な整理であり、個別の手続きの可否や要件充足を保証するものではありません。試験・協議会・訪問系サービスの要件など日本側の制度は厚生労働省・出入国在留管理庁の最新情報を、フィリピン側の手続きは管轄のMWO(駐日フィリピン移住労働者事務所)・DMW(移住労働者省)の最新情報を必ずご確認ください。

