特定技能(造船・舶用工業分野)でフィリピン人材を受け入れる|在留申請の前に必要な2つの手続き

特定技能

造船・舶用工業分野で特定技能の情報を調べると、「溶接」「塗装」「鉄工」といった区分名が出てきます。ところが現在の制度に、その区分はもうありません。

2024年3月29日の閣議決定により、業務区分は旧6区分から「造船」「舶用機械」「舶用電気電子機器」の3区分に再編されました。 そしてもうひとつ、この分野には他分野にない前提手続があります。在留諸申請を行う前に、国土交通省から「造船・舶用工業分野に係る事業を営む者である」ことの確認を受けなければなりません。ここを知らずにスケジュールを組むと、申請の直前で止まります。 この記事は、造船所・舶用機器メーカーの人事・総務担当者と、登録支援機関の新任の職員に向けて、現行制度で何が必要なのかを運用要領の別冊にあたって整理したものです。

先に、結論だけ

① 業務区分は3つです。「溶接」「塗装」などの区分はもうありません。 ② 在留申請の前に、2つの手続きが必要です。国交省の事業者確認と、協議会への加入。 ③ 令和6年6月15日以降、初回受入れでも協議会の構成員であることの証明書が要ります。以前の「入国後4か月以内」の誓約書では通りません。 ④ 派遣は認められません。違反すると、以後5年間受入れができなくなります。 ⑤ 特定技能2号の実務経験は「2年以上」です。単に監督者であればよいわけではありません。

1. 区分再編で、何が変わったのか

制度創設時、この分野には6つの業務区分がありました。それが2024年3月29日の閣議決定で3区分に統合されています。 旧区分(〜2024年3月) 溶接 / 塗装 / 鉄工 仕上げ / 機械加工 電気機器組立て 6区分 2024年3月29日 閣議決定 現行区分(2024年〜) 造船 溶接・塗装・鉄工・とび・配管・船舶加工 など 舶用機械 仕上げ・機械加工・鋳造・機械保全 など 舶用電気電子機器 電気機器組立て・電子機器組立て など 区分は「作業の種類」ではなく「何を作るか」で分かれる形になりました。運用要領の別冊は、各区分で対象となる作業を次のように示しています。
区分 対象となる作業
造船 溶接、塗装、鉄工、とび、配管、船舶加工
舶用機械 溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、配管、鋳造、金属プレス加工、強化プラスチック成形、機械保全、舶用機械加工
舶用電気電子機器 機械加工、電気機器組立て、金属プレス加工、電子機器組立て、プリント配線板製造、配管、機械保全、舶用電気電子機器加工
1つの区分の中で、複数の作業に横断的に従事できます。これが再編の狙いです。

関連業務も認められます

主たる業務のほか、その業務に従事する日本人が通常行う関連業務に付随的に従事することは差し支えないとされています。別冊には具体例が挙げられています。
  • 読図作業/作業工程管理/検査(外観、寸法、材質、強度、非破壊、耐圧気密等)
  • 機器・装置・工具の保守管理/機器・装置・運搬機の運転
  • 資材の材料管理・配置/部品・製品の養生/足場の組立て・解体
  • 廃材処理/梱包・出荷/資材・部品・製品の運搬/入出渠/清掃
ただし、専ら関連業務に従事することは認められません。あくまで付随的なものです。

2. 在留申請の前に、2つの手続きが必要です

ここがこの分野で最も見落とされる部分です。 1 国土交通省の事業者確認 造船・舶用工業分野に係る事業を営む者であること → 造船・舶用工業事業者の確認通知書 2 協議会への加入 造船・舶用工業分野特定技能協議会(国交省が設置) → 協議会の構成員であることの証明書 登録支援機関に委託する場合、委託先も加入が必要 3 地方入管への在留諸申請 上記2つの書類を添えて申請 4 受入れ開始 以後、協議会・国交省の調査や指導に協力 令和6年6月15日以降の変更点 初回の受入れでも、協議会の構成員であることの証明書が 必要です。「入国後4か月以内」の誓約書では通りません。

事業者確認とは何か

告示は、受入れ企業を「造船法第6条第1項の事業を営む者、小型船造船業法第2条第1項に規定する小型船造船業を営む者その他の造船・舶用工業分野に係る事業を営む者」と定めています。 別冊は、在留諸申請を行う前に、この点について国土交通省の確認を受ける必要があるとしています。確認を受けると「造船・舶用工業事業者の確認通知書」が交付され、これが申請時の確認対象書類になります。 自社が該当するか判断がつかない場合の相談窓口も示されています。国土交通省海事局船舶産業課(03-5253-8634)です。

協議会加入のタイミングが変わりました

令和6年6月15日以降、初めて特定技能外国人を受け入れる場合であっても、在留諸申請の際に協議会の構成員であることの証明書の提出が必要です。 それ以前は、初回に限り「入国後4か月以内に加入する旨の誓約書」で足りていました。古い解説記事はこの誓約書方式で書かれている可能性があります。 なお、登録支援機関に支援計画の全部の実施を委託する場合、その登録支援機関も在留諸申請の前に協議会に加入している必要があります。提出がない場合、申請は不許可になるとされています。

3. 技能水準をどう満たすか

特定技能1号の技能水準を満たす方法は3つです。
ルート 技能試験 日本語試験
造船・舶用工業分野特定技能1号試験に合格 必要 必要
技能検定3級に合格 ― 必要
別表に掲げる職種・作業の技能実習2号を良好に修了 免除 免除
日本語試験は国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)または日本語能力試験N4以上です。 日本語試験の免除は、職種・作業の種類を問いません。造船と無関係の技能実習2号でも、良好に修了していれば日本語試験は免除されます。一方、技能試験の免除には、区分に対応した職種・作業である必要があります。

技能実習2号からの移行|区分別の対応

運用要領の別表で、区分ごとに対応する職種が定められています。
区分 試験免除となる技能実習2号の職種 技能検定3級での免除
造船 溶接(手溶接/半自動溶接)、塗装(建築塗装/金属塗装/鋼橋塗装/噴霧塗装)、鉄工(構造物鉄工)、とび(とび)、配管(建築配管/プラント配管) 塗装、とび、配管
舶用機械 溶接、塗装、鉄工(構造物鉄工)、仕上げ(治工具/金型/機械組立仕上げ)、機械加工(普通旋盤/フライス盤/数値制御旋盤/マシニングセンタ)、配管、鋳造(鋳鉄鋳物/非鉄金属鋳物)、金属プレス加工、強化プラスチック成形(手積み積層成形)、機械保全(機械系保全) 塗装、仕上げ、機械加工、配管、鋳造、機械保全
舶用電気電子機器 機械加工、電気機器組立て(回転電機組立て/変圧器組立て/配電盤・制御盤組立て/開閉制御器具組立て/回転電機巻線製作)、金属プレス加工、電子機器組立て、プリント配線板製造(設計/製造)、配管、機械保全 機械加工、電気機器組立て、電子機器組立て、プリント配線板製造、配管、機械保全
とび(とび作業)は造船区分の免除対象です。建設分野のとびとは別の道になりますので、どちらで受け入れるかは事前に決めておいてください。とびの区分判断は特定技能でとび職人を受け入れるで扱っています。

技能実習修了の証明方法

試験免除を受けるには、技能実習2号修了時の技能検定3級またはこれに相当する技能実習評価試験の実技試験の合格証明書が必要です。 合格していない場合(技能実習法施行前の旧制度の技能実習生を含む)は、技能実習生に関する評価調書(参考様式第1-2号)、または実習実施者が作成した技能等の修得状況を評価した文書の提出が求められます。

4. 旧試験の合格者には経過措置があります

区分再編にあたり、旧区分の試験に合格した人の扱いが定められています。
旧試験の合格区分 みなされる現行区分
溶接 造船・舶用機械(両方)
塗装 造船・舶用機械(両方)
鉄工 造船・舶用機械(両方)
仕上げ 舶用機械
機械加工 舶用機械・舶用電気電子機器(両方)
電気機器組立て 舶用電気電子機器
すでに旧試験に合格している人は、あらためて受験する必要はありません。とくに旧「溶接」「塗装」「鉄工」の合格者は、造船と舶用機械のどちらの区分にも移れます。 なお、これは特定技能2号試験についても同様の経過措置が定められています。

5. 受入れ企業に課される条件

告示第2条は、受入れ企業について次の6つを定めています。あわせて分野別運用方針が、訓練・各種研修の実施を求めています。 告示第2条が定める6つの基準 1 造船・舶用工業分野に係る事業を営む者であること 国交省の事業者確認が必要 2 協議会の構成員であること 3 協議会に対し、必要な協力を行うこと 4 国交省が行う調査・指導に協力すること 5 委託先の登録支援機関も2〜4を満たすこと 支援計画の全部の実施を委託する場合 6 実務経験を証する書類を交付すること 交付しないと基準不適合。受入れができなくなります + 必要に応じた訓練・各種研修の実施(分野別運用方針) 派遣は不可。違反すると以後5年間、受入れができません

6番目を軽く見ないでください

「特定技能外国人から実務経験を証明する書面の交付を求められた場合、交付をしなければならず、これを行わない場合は基準に適合しないことから、特定技能外国人の受入れができないこととなります」——別冊はこう明記しています。 交付を拒むと、その会社は特定技能外国人を受け入れられなくなります。本人のキャリアが止まるだけでなく、会社自身が受入れの資格を失うということです。 在職期間・従事した業務・役割を、日々の記録として残しておく仕組みが要ります。

訓練・研修は、とくに職種が変わる場合に

別冊は、技能実習で従事した職種とは異なる業務に従事させる場合には、労働災害を防止するために十分な訓練や安全衛生教育を含む各種研修を実施する必要があるとしています。 区分の統合で作業の幅が広がった分、未経験の作業に就かせる場面が増えます。ここは制度上の要請でもあります。

6. 特定技能2号への道

特定技能1号 特定技能2号
業務 監督者の指示を理解し、又は自らの判断により製造工程の作業に従事 複数の作業員を指揮・命令・管理しながら製造工程の作業に従事
技能水準 1号試験 または 技能検定3級 2号試験 または 技能検定1級
実務経験 ― 監督者として2年以上

「監督者」と「実務経験」の中身

別冊は具体的に定義しています。 監督者とは、グループ長やグループリーダー等といった者をいいます。 実務経験とは、たとえば次のことを行いながら業務に従事した経験です。
  • 自らのグループの各従業員への作業指示
  • 製作物の確認
  • 安全確保のための設備や作業場環境の点検
  • 作業計画の作成
  • 作業の進捗管理
技能検定1級での申請の場合、実務経験は「造船・舶用工業分野2号特定技能外国人に求められる実務経験に係る証明書」(分野参考様式第7-3号)で確認されます。2号試験の場合は、受験の際に実務経験の有無が確認されます。

7. フィリピン側で気をつけること

MWO(駐日フィリピン移住労働者事務所)への申請では、求人情報(Job Order)に職種を登録します。日本側で申請する業務区分と、求人票の職種が食い違わないようにしてください。 とくに注意したいのが区分再編の影響です。2024年3月より前に作られた書式やテンプレートには、「溶接」「塗装」といった旧区分名が残っている可能性があります。送出機関側の様式や、社内で使い回している雛形を一度確認しておくことをおすすめします。 また、事業者確認と協議会加入は日本側だけで完結する手続きです。相手を待たずに進められるので、採用活動より先に済ませておくのが合理的です。フィリピン側の手続きが終わってから日本側の前提で止まる、という事態を避けられます。 手続きの順序は手続きの順序|日本側とフィリピン側、英訳のルールはMWO申請の英訳ルールで扱っています。

よくある間違い

  1. 「溶接」の区分で申請しようとする。2024年3月の再編で3区分に統合されました。ただし旧試験の合格者には経過措置があり、受け直す必要はありません。
  2. 事業者確認を知らずにスケジュールを組む。在留諸申請の前に、国交省から事業を営む者であることの確認を受ける必要があります。
  3. 「入国後4か月以内に協議会に加入」で足りると考える。令和6年6月15日以降は、初回でも申請時に構成員であることの証明書が必要です。
  4. 登録支援機関の協議会加入を確認していない。委託先も申請前に加入している必要があり、提出がなければ不許可になります。
  5. 派遣や請負で受け入れようとする。派遣は認められず、違反すると以後5年間受入れができなくなります。
  6. 実務経験の記録を残していない。求めに応じて交付しないと基準不適合となり、受入れができなくなります。
  7. 2号の実務経験を「監督者であればよい」と考える。2年以上必要です。作業指示、製作物の確認、安全点検、作業計画、進捗管理を行った経験が求められます。
  8. 技能実習修了者にも日本語試験が必要だと考える。職種を問わず、技能実習2号を良好に修了していれば免除されます。
  9. 関連業務だけをさせる。清掃や運搬などの関連業務に付随的に従事することは差し支えありませんが、専ら関連業務に従事することは認められません。

まとめ

確認すること

  • 業務区分は造船・舶用機械・舶用電気電子機器の3つ
  • 在留申請の前に事業者確認と協議会加入を済ませる
  • 令和6年6月15日以降、初回でも協議会の証明書が必要
  • 旧試験の合格者には経過措置がある
  • とび(とび作業)は造船区分の試験免除対象
  • 実務経験を証する書類の交付を怠ると受入れ資格を失う
  • 2号は監督者として2年以上の実務経験
  • 派遣は不可。違反すると5年間受入れ不可
造船・舶用工業分野は、2024年に区分が変わり、2024年6月に協議会加入のタイミングも変わった分野です。ウェブ上の情報は、まだ追いついていません。 準備を始めるときは、まず国土交通省海事局の現行資料と、運用要領の別冊に直接あたってください。判断がつかない場合の相談窓口も公表されています。

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本記事は情報提供を目的としたものです。制度・運用は変更されることがあります。具体的な手続きにあたっては、出入国在留管理庁および国土交通省海事局の最新情報をご確認ください。

主な参照先:法務省・国土交通省編「運用要領別冊 特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領-造船・舶用工業分野の基準について-」(令和6年3月29日一部改正、PDF)/出入国在留管理庁「造船・舶用工業分野」/国土交通省「造船・舶用工業分野における新たな外国人材の受入れ(在留資格「特定技能」)」/平成31年国土交通省告示第359号