フィリピン人材の年末調整|母国の家族への送金と扶養控除

定着支援

年末調整の時期になると、フィリピン人材の受入れ現場では毎年同じことが起きます。「あの人はお金が戻ってきたのに、なぜ私はもらえないのか」という質問です。

背景にあるのは、「税金が戻る=会社からのボーナス」という誤解です。実際には、扶養している家族の人数と年齢、そして送金の実績によって、還付される額は人によって大きく変わります。何も戻らない人もいます。 さらにフィリピン人材の場合、母国の家族への送金による扶養控除が関わってきます。これは本人の関心が非常に高い一方で、書類が揃わない、誰に送るかで金額が変わる、といった実務上の難しさがあります。 この記事は、企業の人事・総務担当者と、登録支援機関の新任の職員に向けて、何が控除の対象になり、何が必要で、どこで揉めるのかを整理したものです。

先に、結論だけ

① 年末調整は、会社がお金を配る制度ではありません。払いすぎた所得税を精算するだけです。ここを最初に説明しないと、必ず揉めます。 ② 国外に住む家族も、扶養控除の対象にできます。ただし書類が必要です。 ③ 年齢によって、扱いがまったく変わります。とくに30歳以上70歳未満は、原則として対象外です。 ④ 送金は「各人ごと」に必要です。代表者1人にまとめて送っても、他の家族の分にはなりません。 ⑤ 手渡し・友人経由の送金は、証明できません。金融機関等を通した記録が必要です。

1. まず、「戻ってくるお金」の説明から

ここを飛ばすと、あとの説明が全部通じません。 毎月の給与から天引きされている所得税は、あくまで概算です。扶養している家族の人数や、その年に支払った保険料などを反映していません。 そこで年末に、1年間の給与総額と控除を確定させ、本来納めるべき税額との差額を精算します。これが年末調整です。 年末調整は「精算」であって「支給」ではありません 毎月の天引き額 概算の所得税 家族の状況は未反映 - 1年分を計算し直した額 本来の所得税 扶養・保険料を反映 払いすぎていた → 還付される 足りなかった → 追加で徴収 だから、人によって金額が違います 扶養する家族の人数・年齢・送金の実績で変わります。 戻らない人、逆に徴収される人もいます。
「会社がくれるお金ではなく、自分が払いすぎた分が返ってくるだけです」——この一文を、書類を配る前に伝えてください。

2. 国外に住む家族を扶養にできるか

できます。ただし条件があります。 まず前提として、「生計を一にする」ことが必要です。国税庁は、これは必ずしも同居を要件とするものではないとしており、勤務・修学・療養等の都合で別居している場合でも、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には「生計を一にする」ものとして取り扱うと説明しています。 つまり、送金の実績そのものが、要件を満たすための行為になります。 もうひとつ、扶養親族となるには、その家族の合計所得金額が一定額以下である必要があります。令和7年度税制改正により、この金額は58万円以下(給与収入だけの場合は123万円以下)となりました。令和7年12月1日に施行され、令和7年分の所得税から適用されています。 改正前は48万円以下(給与収入103万円以下)でした。古い解説記事には旧の数字が残っているので、注意してください。

3. 年齢で扱いが変わります|ここが一番の要点

ご本人が最も知りたいのはここです。そして、説明を間違えると期待させてしまう部分でもあります。 国外に住む家族|年齢別の取扱い 16歳未満 扶養控除の対象外(控除額なし) ※住民税の非課税限度額の判定には影響します 16歳以上19歳未満 控除額 38万円 必要書類:親族関係書類+送金関係書類 19歳以上23歳未満 控除額 63万円(特定扶養親族) 最も控除額が大きい区分です 23歳以上30歳未満 控除額 38万円 必要書類:親族関係書類+送金関係書類 30歳以上70歳未満|原則、対象外 次のどれかに当てはまる場合のみ対象になります ・留学により国内に住所・居所がなくなった人 ・障害者 ・その年に38万円以上の送金を受けた人 70歳以上 控除額 48万円(老人扶養親族) 同居老親等の58万円は、別居のため該当しません

30歳以上70歳未満が「壁」になります

令和5年1月以後、30歳以上70歳未満の国外居住親族は、原則として扶養控除の対象から外れました。 対象になるのは、次の3つのいずれかに該当する場合だけです。
該当する場合 必要な書類
留学により国内に住所および居所を有しなくなった者 親族関係書類+送金関係書類+留学ビザ等書類
障害者 親族関係書類+送金関係書類
その年に生活費または教育費に充てるための支払を38万円以上受けている者 親族関係書類+38万円送金書類
これに当てはまらない30歳以上70歳未満の国外居住親族については、扶養控除の適用はありません。 実務上、多くのケースで問題になるのが本人の兄弟姉妹や、まだ60代の親です。「毎月少しずつ送っている」という状態でも、その人への送金が年間38万円に届かなければ、控除は受けられません。

4. 誰に送るかで、金額が変わります

ここが、ご指摘のとおり最も誤解されやすい部分です。 送金は「各人ごと」に行う必要があります。国税庁は、送金関係書類を「その年における生活費または教育費に充てるための支払を、必要の都度、各人に行ったことを明らかにするもの」と定義しています。 つまり、母親の口座に家族全員分をまとめて送っても、それは母親への送金にしかなりません。父親、祖母、弟の分にはならないのです。

よくある実例

本人が毎月5万円を母親の口座に送金している。母親は67歳、父親は70歳、祖母は75歳。 このとき控除の対象にできるのは母親だけです。父親と祖母には1円も送っていないことになるため、対象になりません。 もし3人それぞれの口座に分けて送金していれば、3人とも対象にできた可能性があります。同じ金額を送っていても、送り方だけで結果が変わります。

「38万円」「48万円」は、送金額ではありません

ここは必ず混同されるので、切り分けて説明してください。 38万円・48万円・63万円といった数字は、税額を計算するときに所得から差し引く「控除額」です。送らなければならない金額ではありません。
意味 いくら必要か
控除額 所得から差し引かれる額(38万円・48万円・63万円など) 送金額とは無関係。年齢で決まります
送金額 実際に家族へ送ったお金 30歳以上70歳未満のみ、年38万円以上が要件
年間38万円以上という送金の下限が課されるのは、30歳以上70歳未満の家族を対象にする場合だけです。 70歳以上の親や、16歳以上30歳未満の子・きょうだいについては、具体的な送金額の下限は定められていません。生計を一にしていると認められる送金の実績があり、送金関係書類で確認できれば足ります。 「父に48万円送らないと控除できないのか」と聞かれたら、違います、と答えてください。 これは年末調整の直前に気づいても手遅れです。その年の送金記録は変えられません。年初のうちに説明しておくことが唯一の対策になります。 なお、同じ家族を、複数の人が重複して扶養控除の対象にすることはできません。兄弟が2人とも日本で働いていて、2人とも同じ両親に送金している場合でも、控除を受けられるのはどちらか1人です。均等に送金していても同じです。

5. 送金の証明書類|揃わない理由と対策

現場で最も手間がかかるのがここです。 ○ 送金関係書類になるもの ・金融機関の書類(外国送金依頼書の控えなど) ・クレジットカード発行会社の書類 家族が家族カードで買い物をした分の明細 ・電子決済手段等取引業者の書類 令和6年分以後の確定申告から対象 × 証明できないもの ・帰国時に現金を手渡し ・帰国する同僚に預けて届けてもらう ・家族以外の名義の口座あての送金 記録が残る方法でなければ、控除は受けられません

なぜ書類が揃わないのか

現場で起きているのは、だいたい次のどれかです。 控えを捨てている。送金のたびに受け取る書類を、その場で処分してしまっている。1年分を年末にまとめて集めようとすると、すでに手元にありません。 送金アプリの明細を出せない。スマートフォンの画面は見られるが、書類の形にできない。会社側で印刷を手伝う必要があります。 名義が一致しない。送金人の名前がニックネームや旧姓で登録されていたり、受取人が家族以外の名義になっていたりする。 帰国時に現金で持ち帰っている。これが最も多く、そして最も救えないパターンです。記録が残らないため、控除の対象にできません。

会社が確認する義務はあるのか

国税庁は、国内に住む親族を扶養に取る場合について、法令上、源泉徴収義務者に対して送金を証明する書類等の提出を求めることまで必要とされているわけではないとしつつ、正しい扶養控除の計算を行うために、振込票や書留の写しなどの提示を受けて確認することを勧めています。 ただし国外居住親族については扱いが異なります。親族関係書類・送金関係書類等を、源泉徴収義務者に提出または提示しなければならないとされています。 つまり、国外居住親族の場合は書類の確認が前提です。「本人が言っているから」では通りません。

親族関係書類とは

その人が本人の親族であることを証明する書類です。次のどちらかになります。
  • 戸籍の附票の写しその他の国または地方公共団体が発行した書類+その親族の旅券(パスポート)の写し
  • 外国政府または外国の地方公共団体が発行した書類(その親族の氏名、生年月日および住所または居所の記載があるものに限る)
フィリピンの場合、PSA(フィリピン統計庁)が発行する出生証明書や婚姻証明書が該当します。1つの書類だけで親族関係を証明できない場合は、複数の書類を組み合わせます。 外国語で作成されている場合は、日本語の翻訳文が必要です。ここも見落とされがちです。取得と翻訳には時間がかかるため、年末調整の直前に依頼するのでは間に合いません。

6. 揉めないための説明の順序

実務としては、次の順で進めるのが現実的です。

年間の段取り

年初(1月〜2月) ・年末調整のしくみを説明する(会社からの支給ではないこと) ・扶養にできる家族の範囲と、年齢による違いを伝える ・「送金は各人ごとに、記録の残る方法で」を伝える 年の途中 ・送金の控えを保管しているか、面談時に確認する ・PSA発行の書類と翻訳の準備を促す 年末調整の時期 ・書類の確認 ・還付額に差が出ることを、事前にあらためて説明する
年末調整の時期だけの作業だと考えていると、必ず間に合いません。とくに親族関係書類の取得と翻訳、そして送金の分け方は、年初に手を打つべき事項です。

よくある間違い

  1. 「年末調整でお金がもらえる」と説明してしまう。払いすぎた税金の精算です。人によって金額が違い、戻らない人もいます。最初にここを伝えないと、あとで不満になります。
  2. 代表者1人にまとめて送金している。送金は各人ごとに必要です。母親の口座にまとめて送っても、父親や祖母の分にはなりません。
  3. 30歳以上70歳未満の家族も、当然対象になると考える。原則として対象外です。留学・障害者・38万円以上の送金のいずれかに該当する場合に限られます。
  4. 16歳未満の子どもを扶養控除の対象だと考える。扶養控除の対象にはなりません。ただし住民税の非課税限度額の判定には影響します。
  5. 70歳以上の親に58万円の控除が使えると考える。58万円は同居老親等の額です。国外居住の場合は別居なので該当しません。
  6. 帰国時に現金を手渡ししている。記録が残らないため、証明できません。
  7. 兄弟が2人とも同じ両親を扶養にしている。重複して控除を受けることはできません。どちらか1人です。
  8. 控除額と送金額を混同する。38万円・48万円は控除額です。年38万円以上という送金の下限が課されるのは、30歳以上70歳未満の家族だけです。
  9. 年末調整の直前に書類を集め始める。PSA発行書類の取得と翻訳には時間がかかります。年初から準備が必要です。
  10. 外国語の書類をそのまま受け取っている。日本語の翻訳文が必要です。

まとめ

確認すること

  • 年末調整は精算です。会社からの支給ではないと、最初に伝える
  • 年齢で扱いが変わります。とくに30歳以上70歳未満は原則対象外
  • 送金は各人ごとに。まとめ送金は1人分にしかなりません
  • 記録の残る方法で。手渡し・友人経由は証明できません
  • 控除額と送金額は別。38万円以上の送金要件は30歳以上70歳未満だけ
  • 親族関係書類には翻訳文が必要。取得にも時間がかかります
  • 準備は年初から。年末では間に合いません
「なぜあの人だけ」という質問は、制度を説明していないから起きます。逆に言えば、年初に一度きちんと説明しておけば、ほとんど起きません。 そして扶養控除は、本人の手取りに直接効く数少ない制度です。送金の分け方ひとつで、年間の還付額が大きく変わります。本人にとって意味のある情報を、意味のあるタイミングで渡してください。

関連記事

本記事は情報提供を目的としたものです。税制は改正されることがあり、個別の判断には専門的な検討を要します。具体的な取扱いについては、国税庁の最新情報をご確認いただくか、所轄の税務署または税理士にご相談ください。

主な参照先:国税庁タックスアンサー「No.1180 扶養控除」(令和7年4月1日現在法令等)/国税庁「国外居住親族に係る扶養控除等の適用について」/同「令和5年1月以後に非居住者である親族について扶養控除等の適用を受ける方へ」(PDF)