フィリピン人材が妊娠したら|企業がまず知るべきこと・してはいけないこと

定着支援

受入れ企業の担当者にとって、これは経験の少ない場面です。前例が社内になく、誰に何を聞けばいいのかも分からない。そのまま「本人と話し合って、帰国してもらった」という対応になってしまうことがあります。

その対応は、多くの場合、法律違反です。 出入国在留管理庁は繰り返し注意喚起を出しています。技能実習生に対する調査では、監理団体・実習実施者・送出機関から「妊娠したら仕事を辞めてもらう」といった不適正な発言を受けたことがある技能実習生が26.5%にのぼりました。裏を返せば、4人に1人が言われているということです。 この記事は、企業の人事・総務担当者と、登録支援機関・監理団体の新任の職員に向けて、妊娠の申し出を受けた日から順に何をするかを整理したものです。

先に、結論だけ

① 妊娠・出産を理由に解雇したり、帰国させたりすることはできません。日本人労働者と同じ労働関係法令が適用されます。 ② 産前産後の休業期間と、その後30日間の解雇は禁止されています。労働基準法第19条です。 ③ 妊娠中・産後1年以内の解雇は、原則として無効です。男女雇用機会均等法第9条第4項により、事業主が「妊娠等を理由とする解雇ではない」と証明しない限り、無効になります。 ④ 本人は健康保険から出産育児一時金を受け取れます。子ども1人につき原則50万円です。 ⑤ 会社がすべきことは、まず制度を説明することです。選択肢を示さないまま本人に判断させると、必要のない退職・帰国につながります。

1. なぜ、この場面で企業が間違えるのか

理由は2つあります。 ひとつは、在留資格と雇用契約を混同していることです。 「働けない期間があるなら、在留資格がなくなるのでは」と考えてしまう。実際には、雇用契約が継続していて、休業後に復職する見込みがあるのなら、在留期間の更新は可能とされています。出入国在留管理庁も、技能実習について同様の整理を示しています。 もうひとつは、本人が言い出せないことです。 「妊娠を伝えたら帰国させられる」と思っている本人は、限界まで黙っています。その結果、発覚したときには妊娠がかなり進んでいて、選べる選択肢が減っているという状況が起こります。
なお、フィリピンでは中絶が法律上認められていません。「なかったことにする」という選択肢が、そもそも存在しないという前提で相談を受ける必要があります。【要確認:フィリピンの法制度については、必要に応じて公的資料でご確認ください】

2. 妊娠中に、会社がしなければならないこと

労働基準法と男女雇用機会均等法が定めています。外国人であっても、日本人労働者と同じです。

本人の請求がなくても、会社がしなければならないもの

  • 危険有害業務に就かせないこと(労働基準法第64条の3)
    重量物を取り扱う業務、有害ガスが発散する場所での業務など、妊娠・出産・哺育に有害な業務です。
  • 産後8週間、就業させないこと(労働基準法第65条第2項)
    ただし産後6週間を経過した後、本人が請求し、医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えありません。
  • 保健指導・健康診査を受けるための時間を確保すること(男女雇用機会均等法)
  • 主治医等の指導事項を守れるようにする措置を講じること(同法)
    通勤緩和、休憩に関する措置、作業の制限・勤務時間の短縮・休業などです。

本人が請求したら、会社が応じなければならないもの

  • 産前6週間(多胎妊娠は14週間)の休業(労働基準法第65条第1項)
  • 軽易な業務への転換(同条第3項)
    「人手が足りない」を理由に断ることはできません。
  • 時間外労働・休日労働・深夜業をさせないこと(同法第66条)

母性健康管理指導事項連絡カード

主治医の指導内容を会社に正確に伝えるための様式が、男女雇用機会均等法に基づく指針で定められています。「母性健康管理指導事項連絡カード」といいます。 日本語での説明が難しい本人の場合、このカードを使うと、口頭のやり取りに頼らずに済みます。通院に同行できない企業でも、医師の指示内容を書面で受け取れます。

3. 産前産後のスケジュール

妊娠判明 まず制度を説明する この間ずっと必要な配慮 ・危険有害業務には就かせない ・軽易業務への転換(請求があれば必須) ・時間外/休日/深夜業の免除(請求時) ・健診を受ける時間の確保 産前6週間 多胎妊娠は14週間 本人が請求したら休業させる 出産 産後6週間 就業させてはならない(例外なし) 産後8週間 原則、就業させてはならない 6週経過後、本人請求+医師が認めれば就業可 解雇禁止(労働基準法19条) 産前産後休業の期間+その後30日間 産後1年 この間の解雇は原則無効(均等法9条4項) 育児休業 原則、子が1歳になるまで 産前は「請求があれば」、産後は「請求がなくても」休ませます 産前と産後で、性質がまったく違う点に注意してください。産前休業は本人が請求してはじめて発生しますが、産後休業は本人が「働きたい」と言っても、6週間は就業させられません。

4. 制度ごとの届出先|ここが特定技能と技能実習で違います

在留資格によって、届出先も様式も変わります。新人担当者が最も混乱する部分です。
特定技能 技能実習
届出先 地方出入国在留管理局 外国人技能実習機構(OTIT)
届出の名称 受入れ困難に係る届出 技能実習実施困難時届出書
再開時 ― 技能実習計画の変更認定申請(同じ実習実施者)/新規認定申請(実習実施者が変わる場合)

特定技能で、届出が特に重要な理由

特定技能1号には通算5年という上限がありますが、産前産後休業・育児休業の期間は、この通算から除くことができます。 ただし条件があります。休業の原因となった事由が発生した際に、遅滞なく「受入れ困難に係る届出」を行っていることが前提です。届出をしていなければ、実際に休業していても、その期間を通算から除くことはできません。
つまり、届出の遅れが、そのまま本人の在留期間の損失になります。

技能実習の場合の流れ

出入国在留管理庁が「技能実習生が妊娠等した場合の基本フロー」を公表しています。要点は次のとおりです。

中断から再開までの手順

  • 技能実習実施困難時届出書を外国人技能実習機構に提出
  • 中断中に在留期間が経過する場合は、在留期間更新許可申請
  • 一時帰国する場合、期間が1年を超えるなら再入国許可(1年未満ならみなし再入国許可の対象となるため申請不要)
  • 実習を再開するときは、技能実習計画の変更認定申請(実習実施者が変わる場合は新規認定)
  • 一時帰国中に在留期間や再入国許可の期間が経過した場合は、あらためて在留資格認定証明書交付申請
在留期間更新の際には、母子手帳の写しなど妊娠の事実や出産予定日が分かる資料と、復職等の見込み時期が分かる資料が必要になります。 なお、実習の再開予定時期があらかじめ明らかになっている場合は、届出と変更認定申請を併せて行うことができます。

5. お金の話|本人に必ず伝えること

不安の大半はここです。制度を知らないまま「働けない=収入ゼロ」だと思い込んで、退職を選んでしまうケースがあります。 出産育児一時金 原則 50万円 子ども1人につき/健康保険 出産手当金 日額の約2/3 産前産後休業中/健康保険 社会保険料 全額免除 本人負担分・会社負担分とも 育児休業給付金 雇用保険から 育児休業を取得した場合 産休中の賃金に、会社の支払い義務はありません 無給でも違法ではない。だからこそ、健康保険・雇用保険 からの給付を本人に説明することが重要になります。 出産育児一時金は、妊娠4か月(85日)以上での出産が対象で、死産・流産の場合も含まれます。

6. 子どもが生まれた後の手続き

日本で出産した場合、期限のある手続きが3つ続きます。
順序 手続き 期限
1 出生届(市区町村) 出生から14日以内
2 在留資格取得許可申請(地方入管) 出生から30日以内
3 在日フィリピン大使館・総領事館への出生の届出、パスポート取得 大使館の定めによる
在留資格取得許可申請は、子どもが出生後60日を超えて日本に在留する場合に必要です(60日以内に出国する場合は不要)。【要確認:詳細は出入国在留管理庁のページでご確認ください】 この3つには順番があります。出生届を出して受理証明書を取得しないと、在留資格取得許可申請に進めません。 30日を過ぎると、子どもの在留に問題が生じます。出産直後の本人が自力でこれを管理するのは現実的ではありません。受入れ機関側でスケジュールを把握しておく必要があります。

7. 本人への説明に使える公式資料

出入国在留管理庁が、妊娠中の技能実習生向けのリーフレットを多言語で公開しています。タガログ語版もあります。 技能実習生向けの資料ですが、制度の説明部分は、本人に伝える内容の整理として使えます。日本語で説明しきれない部分を補うのに有効です。 あわせて、監理団体・実習実施者向けのリーフレットと、「技能実習生が妊娠等した場合の基本フロー及び各種手続について」も公表されています。 また、居住地域の行政機関が設置する多言語対応の相談窓口を、本人に案内してください。出入国在留管理庁も、婚姻・妊娠・出産に係る手続きや医療機関の情報について、必要に応じて周知するよう求めています。

よくある間違い

  1. 「妊娠したら帰国」という説明を、採用時や入国後に行っている。これ自体が不適正な取扱いにあたります。実態調査では、こうした発言を受けた技能実習生が26.5%いました。
  2. 本人が「帰国したい」と言ったので、そのまま手続きした。制度の説明をしないまま聞いた「希望」は、選択とは言えません。先に選択肢を示してください。
  3. 妊娠を理由に解雇した。産前産後休業期間とその後30日間は解雇できません(労働基準法第19条)。また妊娠中・産後1年以内の解雇は、会社が妊娠等を理由としないことを証明しない限り無効です(均等法第9条第4項)。
  4. 軽易業務への転換を「人手不足だから」と断った。本人が請求した場合、会社は転換させなければなりません。断ることはできません。
  5. 産後6週間で本人が「働ける」と言ったので復帰させた。本人の請求に加えて、医師が支障がないと認めた業務であることが必要です。本人の希望だけでは足りません。
  6. 届出を後回しにした。特定技能では、届出の有無が通算5年からの除外の前提になります。遅れると本人の不利益に直結します。
  7. 在留資格がなくなると考えて、退職を勧めた。雇用契約が継続し、復職の見込みがあれば、在留期間の更新は可能とされています。
  8. 出産後の30日ルールを知らなかった。子どもの在留資格取得許可申請は出生から30日以内です。本人任せにはできません。

まとめ

妊娠の申し出は、トラブルではなく、手続きが必要になる場面です。

確認すること

  • 解雇・帰国の強要はできません。日本人労働者と同じ法令が適用されます
  • まず制度を説明します。選択肢を知らせないまま本人に判断させないでください
  • 届出先は在留資格で変わります。特定技能は地方入管、技能実習はOTIT
  • 特定技能では、届出が通算5年からの除外の前提になります
  • 出産育児一時金は原則50万円。社会保険料も免除されます
  • 出産後は、14日・30日という期限のある手続きが続きます
制度を知っている企業と知らない企業とで、本人の人生が変わります。発生してから調べるのでは間に合わない場面が多いため、受入れ前に一度、社内で確認しておくことをおすすめします。

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本記事は情報提供を目的としたものです。制度・運用は変更されることがあります。具体的な手続きや個別の判断にあたっては、出入国在留管理庁・外国人技能実習機構・厚生労働省および都道府県労働局の最新情報をご確認ください。

主な参照先:出入国在留管理庁「技能実習生の妊娠・出産について」/同「技能実習生が妊娠等した場合の基本フロー及び各種手続について」/同「技能実習生の妊娠・出産に係る不適正な取扱いに関する実態調査」(令和4年12月)/厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」/同「出産育児一時金等について」