特定技能外国人の在留カードを見ても、その人がどの会社で、どの分野で働けるのかは書かれていません。券面にあるのは「特定技能」という在留資格名だけです。
それを定めているのは、パスポートに貼られた「指定書」です。法務大臣が、所属する機関と特定産業分野を指定した文書。ここに書かれた会社以外で働くことはできません。 この指定書をめぐって、転職の場面で見落とされやすい落とし穴があります。新しい在留カードを受け取るタイミングを誤ると、まだ前職に在籍しているのに、指定書上は次の会社の所属になってしまうという状態が生じます。 この記事は、受入れ企業の人事・総務担当者と、登録支援機関の新任の職員に向けて、指定書とは何か、そして受け取る日をなぜ気にする必要があるのかを整理したものです。先に、結論だけ
① 在留カードには、所属機関も分野も書かれていません。確認できるのは指定書だけです。 ② 指定書に書かれた機関以外では働けません。分野も同じです。 ③ 許可の効力は、在留カードを受け取った時点で生じます。通知が届いた時点ではありません。 ④ だから、転職時は「退職日の翌日以降」に受け取りに行ってください。これが最も確実な対策です。 ⑤ 採用時は、在留カード・パスポートに添付されている指定書・パスポート本体の3点を確認します。カードだけでは足りません。1. 在留カードだけでは、確認できないこと
新任の担当者が最初につまずくのがここです。 在留カードの券面には、氏名、生年月日、国籍・地域、住居地、在留資格、在留期間、就労制限の有無などが記載されています。ところが「どの会社で働けるか」「どの分野で働けるか」は、どこにも書かれていません。 指定書は、入管法別表第一の二の表「特定技能」の項の下欄が、活動を「法務大臣が指定する本邦の公私の機関との雇用契約に基づいて行う」ものと定めていることに由来します。指定があってはじめて、活動の範囲が確定する仕組みです。2. 指定書に書かれた会社以外では働けません
これが実務上の帰結です。 指定書に記載された所属機関以外で就労することはできません。アルバイトも同じです。前職を退職した後、在留資格変更許可申請の審査中に他社で働くこともできません。 分野についても同様です。指定された特定産業分野以外の業務には従事できません。3. 効力はいつ生じるのか|ここが要点です
転職の場面を考えるうえで、決定的に重要な点があります。在留カードは、許可の要式行為です。従来パスポートに押していた証印に代わるものであり、「許可証」としての性格を持ちます。出入国在留管理庁は、在留カードについて「上陸許可以外の在留資格に係る許可時に交付される在留カードは、従来の旅券になされる各種許可の証印等に代わって許可の要式行為となるため『許可証』としての性格を有しています」と説明しています。 つまり、審査が終わった時点でも、通知のはがきが届いた時点でもありません。実際に在留カードを受け取った時点で、許可の効力が生じます。 そしてそのとき、新しい指定書も同時に交付されます。指定書上の所属機関が、次の会社に書き換わるということです。
4. 転職時に生まれる「空白」
ここまでを踏まえると、次の構造が見えてきます。なぜ起きるのか
在留資格変更許可申請は、標準処理期間を見込んで余裕をもって早めに提出します。一方、退職日は雇用契約や引き継ぎの都合で決まります。 この2つを誰も突き合わせていないと、許可が退職日より前に下りることがあります。申請から2か月以上かけて、許可が退職の数日前に出る、という並びは珍しくありません。 そして問題は、誰も異常だと気づかないことです。本人は許可が下りたことを喜んで受け取りに行きます。会社も「無事に下りてよかった」で終わります。在留カードの券面は「特定技能」のままで、見た目が変わりません。 指定書の意味を知らなければ、何が起きているか分からないのです。申請日は動かせません。受け取る日は動かせます。
対策として「申請を遅らせる」ことを考えたくなりますが、これは危険です。審査が入社日に間に合わないリスクを負うことになります。 許可が下りる日も、入管の都合で決まるため企業側では動かせません。 唯一コントロールできるのが、受け取りに行く日です。そして、それだけで足ります。5. 受け取り期限はどうなっているか
「待っていて大丈夫なのか」という疑問が出ます。 許可が下りると、入管から通知のはがきが届きます。そこに受け取りの期限が記載されており、おおむね2週間程度とされています。 数日から2週間程度の待機であれば、この期限内に収まります。退職日まで10日待つ、といった調整は問題になりません。 期限を少し超えそうな場合も、実務上はとくに手続きを要しません。ただし受け取り期限から1か月以上行けない事情がある場合は、あらかじめ入管に事情を説明して相談しておくほうが安全です。【要確認:期限の扱いは、通知書の記載および管轄の地方出入国在留管理局にご確認ください】技人国との違いが、混乱の元になります
技術・人文知識・国際業務には指定書がありません。別表の条文に「法務大臣が指定する」という文言がなく、勤務先が法務大臣によって指定される建て付けになっていないためです。 そのため技人国では、転職しても在留資格変更許可申請は原則として不要で、届出で足ります。 この感覚のまま特定技能を扱うと、間違えます。特定技能は転職のたびに在留資格変更許可申請が必要で、そのたびに指定書が書き換わります。そして書き換わる瞬間が、この記事で扱ってきた問題の起点です。 なお、指定書が交付される在留資格は特定技能だけではありません。特定活動と高度専門職にも指定書があります。いずれも条文に「法務大臣が指定する」という文言がある在留資格です。技人国以外の在留資格から採用する場合も、指定書の有無を確認してください。6. 採用時に確認するもの
在留カードだけでは足りません。確認する3点
① 在留カード 在留資格が「特定技能」であること、在留期間が満了していないこと、券面の偽変造がないこと。 ② パスポートに貼付された指定書 所属機関が自社になっているか。分野が自社の業務と合っているか。ここを見ないと、前職の指定書のまま就労させることになります。 ③ パスポート本体 氏名の表記が在留カードと一致しているか。過去の指定書も見せてもらってください
所属機関が変わると、旧指定書には「CANCEL」の押印がされて残ります。本人の手元にあれば、これまでどの会社でどの分野に従事してきたかを追うことができます。 これは特定技能1号の通算5年を確認する場面でも役立ちます。詳しくは特定技能の通算5年は、あと何年残っているのかで扱っています。7. パスポートを更新したら、指定書を貼り替えます
見落とされやすい論点です。 指定書が新しく交付されるのは、指定された内容が変わるときです。所属機関も分野も変わらない在留期間更新では、新しい指定書は発行されません。既存の指定書が、そのまま有効なものとして残ります。 問題は、指定書が物理的にパスポートに貼られていることです。 パスポートには有効期間があり、在留期間中に更新の時期が来ます。新しいパスポートを取得しても、指定書は自動的には移りません。古いパスポートに貼られたままです。やること
本人が、古いパスポートから指定書を取り外し、新しいパスポートに貼り替えます。 入管が貼り替えてくれるわけではありません。在留期間更新の際に新しい指定書が出るわけでもありません。本人の作業です。気づかないまま時間が経ちます
パスポートの更新は、在留資格の手続きとは別の出来事です。そのため企業も本人も、在留に関係のない用事として処理してしまいます。誰も指定書のことを思い出しません。 問題が表面化するのは、たいてい後になってからです。- 転職の面接で新しいパスポートを提示され、指定書がない
- 在留期間更新の申請時に、指定書の提示を求められる
- 過去の経歴を確認しようとしたが、旧指定書が見当たらない
企業側でできること
パスポートを更新する予定があるか、定期面談で確認してください。更新したら指定書を貼り替えること、そして古いパスポートを捨てないことを伝えておきます。 古いパスポートには、指定書のほかに過去の上陸許可の証印なども残っています。経歴を確認できる資料として、保管しておく価値があります。8. フィリピン人材の場合に加わること
日本国内で転職する場合でも、フィリピン側の手続きが別途必要になります。受入れ機関が初めて特定技能外国人を受け入れる場合は、MWO申請が必要です。 日本側の在留資格変更許可申請と、フィリピン側の手続きはそれぞれ独立して進みます。どちらかが終われば他方が不要になる、ということはありません。 国内転職時のMWO手続きについては日本にいるフィリピン人を採用するときもMWO手続きは必要?で整理しています。よくある間違い
- 在留カードだけを確認して雇用契約を結ぶ。券面に所属機関も分野も書かれていません。指定書を見なければ、自社で働けるかどうかは判断できません。
- 許可が下りたらすぐ受け取りに行く。前職を退職する前に受け取ると、指定書上の所属機関が次の会社に変わってしまいます。
- 通知が届いた時点で効力が生じると考える。在留カードは許可の要式行為です。受け取った時点で効力が生じます。
- 申請を遅らせて調整しようとする。審査が入社日に間に合わないリスクを負います。動かすべきは受け取りに行く日です。
- 変更許可の審査中に、他社でアルバイトをさせる。指定書に記載された機関以外では就労できません。
- 指定書の存在を本人に説明していない。パスポートに貼られた1枚の紙です。意味を知らなければ、紛失しても気づきません。
- 技人国と同じだと考える。技術・人文知識・国際業務には指定書がなく、転職しても在留資格変更許可申請は原則不要です。特定技能は転職のたびに変更許可申請が必要で、指定書が書き換わります。
- 過去の指定書を確認しない。CANCEL押印のある旧指定書から、これまでの所属と分野をたどることができます。
- パスポートを更新したのに、指定書を貼り替えていない。在留期間更新では新しい指定書は発行されません。本人が古いパスポートから取り外して貼り替える必要があります。
まとめ
確認すること
- 所属機関と分野は、指定書にしか書かれていません
- 指定書に記載された機関以外では、アルバイトも含めて就労できません
- 許可の効力は、在留カードを受け取った時点で生じます
- 転職時は退職日の翌日以降に受け取りに行く
- 受け取り期限は通知はがきに記載。おおむね2週間程度
- 1か月以上行けない事情があるなら、入管に相談しておく
- 採用時は在留カード・指定書・パスポートの3点を確認
- 技人国には指定書がありません。特定活動・高度専門職にはあります
- パスポート更新時は、指定書を貼り替える。本人の作業です
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本記事は情報提供を目的としたものです。制度・運用は変更されることがあります。具体的な手続きにあたっては、出入国在留管理庁および管轄の地方出入国在留管理局の最新情報をご確認ください。
主な参照先:出入国在留管理庁「在留カードとは?」/同「在留資格の変更(入管法第20条)」/同「在留資格「特定技能」」/出入国管理及び難民認定法 別表第一の二の表

