フィリピンから人材を受け入れる準備を進めていると、必要書類の一覧に「結核非発病証明書」という見慣れない書類が出てくることがあります。
これは、入国前結核スクリーニング(Japan Pre-Entry Tuberculosis Screening、略してJPETS)という制度に基づくものです。2025年6月23日から、フィリピン国籍の方について提出が義務付けられました。 新しい制度なので、社内に経験者がいないことも多いはずです。しかもこの制度は、在留資格によって対象になったりならなかったりします。ここを取り違えると、必要のない健診を受けさせてしまったり、逆に必要な証明書を用意し忘れて在留資格認定証明書が交付されない、という事態が起きます。 この記事では、受入れ企業の人事・総務担当者と、監理団体・登録支援機関の実務担当者に向けて、誰が対象なのか、いつ何をするのかを整理します。先に、結論だけ
① フィリピン国籍の方は、原則としてJPETSの対象です。2025年6月23日以降に申請するものから義務付けられています。 ② ただし、特定技能外国人は「当面の間」対象外とされています。厚生労働省が対象外として列挙している区分に含まれています。 ③ 技能実習・育成就労は対象外リストに入っていません。つまり対象です。ここが最も間違えやすい点です。 ④ 証明書を出さないと、在留資格認定証明書は原則として不交付になります。1. JPETSとは何をする制度か
日本に中長期間滞在しようとする外国人に、入国前に結核の検査を受けてもらう制度です。 日本では結核の患者数が年々減っている一方で、外国生まれの患者数は増加傾向にあります。厚生労働省によれば、2024年の新登録結核患者数10,051人のうち、外国生まれの患者は1,980人でした。とくに若年層では、新登録患者の大半を外国出生者が占めています。 こうした状況を踏まえ、日本での結核患者数が多い国の国籍を持つ方について、入国前に結核を発病していないことの確認を求めることになりました。対象国は6か国
フィリピン、ベトナム、インドネシア、ネパール、ミャンマー、中国の6か国です。ただし全部が同時に始まったわけではなく、準備の整った国から順次開始されています。| 国 | 健診の受付開始 | 証明書の提出義務付け |
|---|---|---|
| フィリピン・ネパール | 2025年3月24日 | 2025年6月23日 |
| ベトナム | 2025年5月26日 | 2025年9月1日 |
| インドネシア・ミャンマー・中国 | 調整中 | 調整中 |
2. 誰が対象になるのか|ここが一番の要点
大前提:中長期在留者であること
対象になるのは、中長期在留者として日本に入国・在留しようとする方です。3か月以下の在留期間の方、短期滞在の方などは対象外です。 また、再入国許可を持っている方は対象外です。すでに日本で働いていて一時帰国し、また戻ってくる方は、この制度の対象になりません。在留資格による例外|特定技能は当面の間、対象外
ここが最も重要な部分です。対象国の国籍を持っていても、次の区分については「当面の間」対象外とされています。- JETプログラム参加者
- JICA研修員(長期・短期)
- JICA人材育成奨学計画(JDS)留学生
- 大使館推薦による国費留学生
- 外国人留学生の教育訓練の受託事業
- EPAに基づく看護師・介護福祉士
- 特定技能外国人
- 特定活動告示第55号(特定自動車運送業準備)
- 家事支援外国人材受入事業
判定の流れ
「フィリピン人だから全員必要」でも「特定技能だから関係ない」でもありません。在留資格ごとに確認してください。 なお、この対象外の扱いは「当面の間」とされています。将来変更される可能性があるため、受入れのたびに厚生労働省の最新情報を確認するのが確実です。【要確認】3. 手続きの流れ
① 指定健診医療機関で健診を受ける
本人が、フィリピン国内にある指定健診医療機関で、医師の診察と胸部レントゲン検査等を受けます。 ここで大事なのは、日本政府が指定した医療機関でなければならないという点です。指定されていない病院で受けた診断書に「結核 陰性」と書かれていても、それでは代用できません。 指定健診医療機関は、在外公館からの推薦に基づき、厚生労働省の委託を受けた入国前結核スクリーニング精度管理センターが調査したうえで、日本政府が指定したものです。一覧は厚生労働省のサイトで公表されています。 費用は本人(申請者)の負担です。金額は医療機関によって異なります。② 結核非発病証明書が発行される
検査で結核を発病していないと判断されると、その医療機関から結核非発病証明書が発行されます。③ 在留資格認定証明書の交付申請時に提出する
発行された証明書を、在留資格認定証明書(COE)の交付申請のときに提出します。在留資格認定証明書を取得せずに在外公館で査証(ビザ)申請を行う場合は、査証申請のときに提出します。 原本でなくて構いません。写し(スキャンデータを含む)での提出が可能とされています。④ 査証申請・上陸申請では、再提出は不要
ここは覚えておくと安心な点です。 在留資格認定証明書を取得したうえで査証申請・上陸申請を行う場合、証明書を提出するのは在留資格認定証明書の交付申請時だけです。その後の査証申請や上陸申請では、あらためて提出する必要はありませんし、そのときに証明書の有効期限が切れていても問題ありません。4. 有効期限は原則180日
結核非発病証明書の有効期間は、胸部レントゲン撮影の実施日から原則180日です。 ただし、次のいずれかに当てはまる方に発行される証明書は、90日間になります。- 同居している家族に、胸部レントゲン撮影日からさかのぼって2か月以内に、感染性の活動性肺結核と診断された方がいる場合
- 胸部レントゲン撮影日から2か月以内に感染性の活動性肺結核と診断された方と、住居や密閉された同じ空間などを長期間(数日以上)共有していた場合
採用の段取りを考えるうえでは、「先に健診を受けさせておく」ことにも限度があるということです。健診が早すぎると、在留資格認定証明書の交付申請までに期限が切れる可能性があります。
5. 気をつけたい場面
検査で結核が見つかった場合
医師の指示に従って治療を受けます。治療が完了すれば、再度スクリーニングを受けることができます。その際には「結核治療終了報告書」が必要になります。 過去に結核と診断されたことがある方でも、治療が完了していて現在発病していないことが確認されれば、証明書は発行されます。過去の病歴だけで排除される制度ではありません。証明書を出さないとどうなるか
原則として、在留資格認定証明書は不交付処分になります。 例外として、交付申請時に提出できないやむを得ない事情があり、かつ査証申請時には提出が見込まれる場合に限り、証明書がなくても在留資格認定証明書が交付されるケースが想定されています。ただし、これに該当するかどうかは個別に判断されるものです。あてにできる扱いではありません。子ども・妊娠中の方
5歳未満の子どもも対象です。問診・身体検査で活動性結核を疑う所見がある場合は成人と同様に胸部レントゲン検査が行われ、所見がない場合はツベルクリン反応検査(TST)またはインターフェロンγ遊離試験(IGRA)が実施されます。 妊娠中の方も対象です。ただし胸部レントゲン撮影には一定のリスクが伴うため、出産後まで健診を延期する、プロテクターを装着して撮影する、という2つの選択肢を本人の責任で検討することとされています。期日の基準は「申請日」
2025年6月23日という日付は、申請を行った日を基準にします。 したがって、その日より前に在留資格認定証明書の交付申請を行い、証明書を提出せずに交付を受けた場合、その後の査証申請日が6月23日以降になったとしても、査証申請時に提出する必要はありません。よくある間違い
- フィリピン国籍なら全員必要だと考える。中長期在留者であることが前提です。また、在留資格によって当面の間対象外とされている区分があります。
- 特定技能でも必要だと考えて、健診を受けさせてしまう。特定技能外国人は、厚生労働省が対象外として列挙している区分に含まれています。費用は本人負担なので、不要な出費をさせることになります。
- 技能実習・育成就労も特定技能と同じだと考える。対象外の一覧に入っていません。特定技能と同じ扱いにしないでください。
- 現地の病院の診断書で代用しようとする。日本政府が指定した健診医療機関が発行したものでなければ認められません。
- 早めに健診を受けさせておく。有効期間は原則180日です。在留資格認定証明書の交付申請のタイミングから逆算してください。
- 一時帰国して戻る人にも必要だと考える。再入国許可を有する方は対象外です。
- 会社が費用を負担する前提で段取りする。制度上、費用は申請者(本人)の負担とされています。会社が負担すること自体を禁じるものではありませんが、制度の建て付けとしては本人負担です。
まとめ
JPETSは、フィリピン人材の受入れで新しく加わった、日本側の入国前手続きです。フィリピン側のMWO・OECの手続きとは別の流れなので、混同しないようにしてください。確認すること
- 対象国6か国のうち、フィリピンは2025年6月23日から義務付け
- 対象は中長期在留者。再入国許可を持つ方は対象外
- 特定技能外国人は当面の間、対象外
- 技能実習・育成就労は対象
- 指定健診医療機関で受診し、結核非発病証明書を取得
- 在留資格認定証明書の交付申請時に提出。写しで可
- 有効期間は原則180日
- 未提出の場合、原則として不交付
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本記事は情報提供を目的としたものです。制度・運用は変更されることがあります。とくに対象外の区分は「当面の間」の措置とされているため、具体的な手続きにあたっては、厚生労働省・出入国在留管理庁・外務省の最新情報をご確認ください。
主な参照先:厚生労働省「入国前結核スクリーニングの実施について(JPETS)」/同「入国前結核スクリーニング(JPETS)Q&A」/出入国在留管理庁・外務省・厚生労働省「入国前結核スクリーニングの実施に関するガイドライン」

