MWO申請の雇用契約書(ANNEX-B)とは|日本の雇用契約書と何が違うのか

MWO手続き

MWO申請の書類準備で、多くの企業が最初に誤解するのが雇用契約書です。

「日本で使っている雇用契約書を英訳すればいいのでは?」——実務の現場では、この発想で作られた契約書が差し戻される場面を繰り返し見てきました。MWO(駐日フィリピン移住労働者事務所)に提出する雇用契約書は、日本の契約書の英語版ではありません。本記事では、この契約書が制度上どういう書類なのか、何を書くのか、日本の契約書と何が違うのかを、実務の現場で実際に起きていることに沿って解説します。

結論:指定様式があり、単独では完結しない書類

まず押さえたいことは2つです。

第一に、MWOに提出する雇用契約書には指定様式があります。特定技能の場合、ANNEX-B(付属書B)と呼ばれる様式を使い、自社の契約書フォーマットは使えません。様式は改訂されることがあるため、必ず管轄MWOの公式サイトから最新版を取得してください。

第二に、この契約書は単独では完結しません。制度上はMaster Employment Contract(基本雇用契約書)と呼ばれ、求人票(Job Order/Manpower Request)が「どんな案件を募集するか」を示すのに対し、雇用契約書は「その案件の雇用条件は何か」を確定させる書類です。そして給与の内訳はSalary Breakdown(給与内訳書)がさらに具体化します。審査で見られているのは、この3つの書類が同じ雇用条件を矛盾なく説明しているかです。契約書だけを丁寧に作っても、Job Orderの給与水準やSalary Breakdownの数字とずれていれば、案件全体の整合性が崩れたと判断されます。

様式に何を書くのか:主な記載事項

ANNEX-B様式は、おおむね次の構成になっています。

契約期間。初期の契約期間と更新の可否を記載します。なお出発日・入国予定日などフィリピン側で確定する欄は、空欄(ブランク)のまま提出するルールになっています。ここを気を利かせて埋めてしまうと、かえって修正対象になります。

勤務地と業務内容。直接雇用か派遣雇用かを区分し、実際の就労場所を記載します。業務内容は職務内容書(ANNEX-A)と対応させます。

労働時間・休日・休暇。所定労働時間、変形労働制の有無、年間休日数、年次有給休暇。1年単位の変形労働時間制など変則的な勤務体系の場合は、雇用契約書だけで完結せず、年間休日カレンダーなどの補足資料が求められやすくなります。特徴的なのは、一時帰国のための休暇について、労働者が希望した場合に必要な休みを与える旨が様式に組み込まれている点です。

賃金。基本給(月給)、各種手当とその計算方法、割増率、給与締め日・支払日、控除の有無、昇給・賞与・退職金の有無。ここがSalary Breakdownとの整合を最も厳しく見られる部分です。さらに特定技能では、同種の業務に従事する日本人従業員の給与明細(の英訳)を賃金比較資料として提出し、提示する条件が日本人と比べて不当に低くないことも確認されます。契約書の賃金は、社内の賃金水準との整合まで視野に入れて設定する必要があります。

費用の負担区分。どの費用を雇用主が負担し、どの費用を労働者に請求できるかが、様式上あらかじめ枠づけられています(詳細は次の章)。

雇用関係の終了・送還・紛争解決。退職・解雇の要件、帰国費用の負担、トラブル時の解決手続きが定められています。

日本の契約書と違う、フィリピン独自のルール

ここが本記事の核心です。ANNEX-Bには、日本の雇用契約の常識のままでは見落とすフィリピン法基準の条項が組み込まれています。代表的なものを挙げます。

帰国費用(送還)は雇用主側の責任

労働者本人の帰国はもちろん、万一の死亡時の遺骨・遺品の送還まで含めて、費用負担は雇用主および送出機関の主要な責任と定められています。病気を理由とする契約終了でも雇用主負担です。

なお、この送還(帰国)費用の条項は、実際に契約が終了する場面で、日本側の入管の取り扱いと食い違いやすいポイントです。退職・帰国が決まったあとの具体的な実務(14日以内の届出、費用の負担、送出機関への精算)は、フィリピン人従業員が退職・帰国するときの手続きで整理しています。

労働者に請求できる費用は限定列挙

査証料、往復航空運賃、空港から職場までの交通費、各種試験費用などは雇用主負担側に列挙されており、労働者に請求できるのはパスポート取得費など本人側の書類費用に限られます。そして職業紹介料を労働者に請求することはできません

賃金は月給制が前提

最低月給が保証される建付けで、日給制・時間給制は認められません。欠勤控除の扱いにも制限があります。

ただし、これは「社内で時給ベースの賃金体系を持つ会社は申請できない」という意味ではありません。実務では、時給ベースの企業が月給に換算して申請する形が取られています。様式の基本給欄も「月給(円)/計算方法(時給×勤務日数)」という構造になっており、月額が算定できる形に整理されていれば問題ありません。制度が求めているのは、働いた分だけ支払う変動給ではなく、月額が保証されていることです。

給与の支払いは銀行振込のみ

現金手渡しは想定されていません。

労働者側の即時契約終了権

ハラスメントや差別的取り扱い、非人道的な待遇があった場合、労働者は予告なしに契約を終了できる条項が入っています。逆に通常の自己都合退職は1か月前の書面通知が必要とされています。

紛争解決にMWOが関与する

契約に関する苦情が解決しない場合、フィリピン大使館・労務官の参加のもとで解決を図る枠組みが組み込まれています。日本の契約書にはまず登場しない発想です。

これらは削除・修正して提出するものではなく、様式に組み込まれた前提条件です。つまり雇用契約書を作る作業とは、条文を書く作業ではなく、自社の労働条件をフィリピン法基準の枠に正確に流し込む作業だと理解するのが実態に近いです。

よくある間違い

基本給が書類間で一致していない

雇用契約書・Job Order・Salary Breakdownの基本給や総支給額の不一致は、補正(差し戻し)の典型パターンです。手当を含めるか含めないか、月額をどう計算するかの基準を最初にそろえ、3つの書類を同じ数字で貫いてください。

控除の内訳が不明確

税・社会保険・住居費・光熱費など、給与から控除する項目は金額の目安まで明示が求められます。加えて住居費・光熱費は、何に基づく控除なのか(実費の按分など)という算定の考え方まで見えるようにしておくと、透明性への疑義を避けられます。「実費」「別途定める」といった書き方は通りません。

日本人従業員との賃金バランスが説明できない

賃金比較資料には、同種または近い業務の日本人従業員の給与明細を使います。職種や経験が大きく異なる明細で比較する、基本給だけを見て手取り水準を無視する、労働時間に対して賃金が不自然に低く見える——こうした状態は、契約書の数字自体が正しくても説明力を弱めます。

空欄にすべき箇所を埋めてしまう(逆も)

出発日や労働者の署名欄はブランクで提出するのがルールです。一方、手当の計算方法や会社規則の該当条文番号など、埋めるべき欄の記載漏れも目立ちます。様式の指示どおりに、埋める欄と空ける欄を区別してください。

署名まわりの不備

代表者の署名はパスポートと同じ字体で統一します。また、雇用契約書には送出機関代表者の署名も必要です。自社側の署名だけ整えて送出機関側の署名が漏れている、というケースは実務で実際に起こります。

古い様式の使い回し

過去の申請で使ったファイルの日付だけ変えて再利用すると、様式改訂に気づかず差し戻されます。申請のたびに最新様式を取得するのが結局いちばんの近道です。

まとめ

  • MWOの雇用契約書は指定様式(ANNEX-B)を使う。自社フォーマットの英訳ではない
  • Job Order・Salary Breakdownと三位一体。数字をそろえ、日本人従業員の賃金水準との整合も確認される
  • 帰国費用の雇用主負担、費用請求の制限、月給制の原則、銀行振込限定など、フィリピン独自ルールが組み込まれている
  • 空欄にすべき欄と埋めるべき欄の区別、送出機関側の署名まで確認する
  • 様式は改訂される。申請のたびに管轄MWOの最新版を取得する

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本記事は情報提供を目的としています。様式・運用は変更されることがあるため、実際の申請にあたっては管轄のMWOおよび関係機関の最新情報をご確認ください。

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