書類を一通り揃えて提出したのに、MWOから連絡が来て書類が戻ってくる。担当者にとって、これほど気の重い瞬間はありません。
差し戻し(補正)がやっかいなのは、時間が確実に失われることです。修正して再提出すれば、その分だけ認証は遅れ、入社予定日にも響きます。しかも原因が「添付漏れ」のような分かりやすいものとは限りません。本記事では、MWO申請で補正が生じやすい論点を整理し、提出前に何を見るべきかをまとめます。
結論:補正の原因は「書類単体」ではなく「書類同士のつながり」にある
差し戻しの理由は無数にあるように見えますが、実は4つの軸に整理できます。
- 会社の実体と権限——この会社は本当に存在し、この人に契約する権限があるか
- 雇用条件と賃金の整合——提示された労働条件は、書類間で一致し、日本人と比べて妥当か
- 送出機関との契約関係——提携関係が正しく成立しているか
- 形式面の成立性——翻訳・署名・押印・公証・体裁が要件を満たしているか
ここで大事なのは、MWO申請が「書類を集めて出す作業」ではなく、フィリピン側の制度に照らして、受入れ企業・雇用条件・求人内容・送出機関との関係を確認する手続きだという点です。登記簿謄本は会社の存在を、雇用条件書は労働条件を、Job Orderは募集内容を、Recruitment Agreementは送出機関との関係を、それぞれ証明する役割を担っています。
だから補正は、1枚の書類の出来不出来より、複数の書類のつながりの中で発生します。1つひとつは正しく書けているのに、並べて読むと辻褄が合わない——これが典型です。
軸①:会社の実体・権限に関する補正
基礎資料が古い。法人の場合、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)は発行から3か月以内のものを用意するのが実務の基本です。準備に時間がかかり、着手時に取った謄本が提出時には期限切れ、というのはよくある事故です。書類一式が揃う目処が立ってから取得するのが安全です。個人事業主の場合は登記簿謄本の代わりに納税証明書・納税申告書を提出しますが、こちらは直近年度のものが求められます。
会社名・住所・代表者名の表記が書類ごとに揺れている。これが最も多く、かつ軽視されやすい論点です。英語表記が登記簿の英訳、会社プロフィール、契約書、雇用契約書の間で少しずつ違うと、単なる誤記では済まず「別法人ではないか」という疑義につながります。
具体的には、Co., Ltd. と Corporation の混在、丁目・番地の書き方の揺れ、代表者名のミドルネームの有無やヘボン式表記の不統一などです。送出機関と署名・押印に入る前に、英語表記を一度確定させて全書類で統一するのが確実です。
軸②:雇用条件・賃金に関する補正
雇用契約書とJob Orderで職種・勤務地・契約期間が一致しない。別の書類ですが、前提となる募集条件は一致していなければなりません。どれかがずれると、そもそも何の申請なのかが曖昧になります。
Salary Breakdownと雇用契約書の賃金がそろっていない。基本給、手当、総支給額。どこまでを基本給に含めるか、月額をどう計算するかの基準がずれると数字が合いません。3つの書類(雇用契約書・Job Order・Salary Breakdown)を同じ数字で貫くことが原則です。
控除の内訳が不明確。住居費や光熱費を「実費」「別途定める」とだけ書くと通りません。金額の目安と、何に基づく控除なのかが見える必要があります。
日本人との賃金比較で説明がつかない。特定技能では同種業務の日本人従業員の給与明細を提出します。職種や経験が大きく異なる明細を使う、労働時間に対して賃金が低く見える、といった状態は説明力を弱めます。
軸③:送出機関との契約関係に関する補正
Recruitment Agreementの署名・公証の不備。RAはMWO申請の中核書類で、全ページに送出機関側の署名と、企業側の署名・会社印が必要です。そのうえで日本での公証を受けます。1ページでも署名が抜けていれば戻ってきます。
送出機関の資料が古い、または不足。DMWライセンスの写しや代表者のパスポート写しが必要です。ライセンスの有効期限にも注意します。
複数の送出機関と提携する場合の追加書類。2社目以降を登録するDual Accreditationでは、日本で公証したAffidavit of Undertakingが追加で求められます(MWO東京の公式案内でも明記されています)。「1社目と同じ書類でいけるはず」と考えて不足するパターンです。
軸④:形式面に関する補正
意外に思われるかもしれませんが、体裁の要件で戻ることがあります。MWO東京は公式サイトで次のように案内しています。
用紙はA4サイズ。書類はホチキスで留めず、クリップを使うこと。記載事項はすべてタイプ入力で、修正跡のあるものは不可。署名と押印は原本であることが必要で、電子署名は認められません。そして書類はチェックリストの順に並べること。
翻訳についても要件があります。日本語の書類にはすべて英訳を添え、翻訳証明書を付けるか、翻訳した人の氏名・署名・押印を記載します。プロの翻訳者である必要はありませんが、「誰が訳したか」が分かる状態にしておく必要があります。
公証まわりでは、公証後に書類へ手を加えないことが鉄則です。日付の追記や誤字修正であっても、認証後の変更は認められません。コピーを取るためにホチキスを外すのも避けてください。
適法でも「説明」が足りないと指摘される
ここまでは書類の不備の話でしたが、実務でよく起きるのは書類自体は日本の法令上まったく問題ないのに、指摘を受けるというケースです。
背景を理解しておくと納得できます。MWOで審査を行うのは、日本の労働法制を前提としていない担当者です。そのため、日本側では説明不要な当たり前のことでも、書類の数字だけを見ると「労働者にとって不利ではないか」と映ることがあります。実務で実際にあった指摘を3つ挙げます。
賃金が最低賃金ぎりぎりだと指摘される。法令上は適法でも、「この水準は低すぎるのではないか」という指摘が入ることがあります。実務では、最低賃金に一定額を上乗せした水準に修正して再提出するという対応が取られます。日本人との比較資料と並べたときに、説得力のある水準かどうかという視点で見直すのが安全です。
寮費の控除額が高いのではないかと指摘される。実費相当であっても、金額だけを見れば判断がつきません。この場合、周辺の家賃相場と比較して妥当である旨の説明文を添えることで解決します。「いくら引くか」だけでなく「なぜその額が妥当か」を示す必要があります。
週6日勤務の週があることを指摘される。1年単位の変形労働時間制を採用していれば、日本の労働基準法上は適法です。ただ、労使協定の届出書を添付しても、その制度自体が伝わらなければ「働かせすぎではないか」という懸念は解消しません。この場合も、日本の制度上問題がない旨を説明する文書を英文で添えることで解決します。
3例に共通するのは、日本の書式や法令の枠内で正しいことと、フィリピン側の審査担当者に伝わることは別だという点です。対処法もほぼ共通していて、英文の補足説明を1枚添えることで前に進みます。
指摘を受けてから作るのでも構いませんが、自社の条件に「数字だけ見ると不利に見えかねない箇所」がある場合は、あらかじめ説明文を用意しておくと往復を1回減らせます。変形労働時間制、寮費・光熱費の控除、最低賃金に近い賃金設定は、その代表例です。
よくある間違い
古い様式を使い回す
過去の申請ファイルの日付だけ変えて再利用すると、様式改訂に気づけません。申請のたびに提出先MWOの公式サイトから最新版を取得してください。
管轄違いの様式を使う
東京と大阪では様式が異なります。前回と管轄が違う案件で、同じ書類一式を流用してしまう事故が起こります。
空欄にすべき欄を埋めてしまう
出発日や労働者の署名欄など、フィリピン側で確定する項目はブランクのまま提出します。親切のつもりの記入が修正対象になります。
チェックリストの「有無」だけ確認して終わる
書類名を1つずつ眺めて漏れがないかを見るのは大事ですが、それだけでは足りません。この書類は何を証明しているのか、他の書類と矛盾していないかという読み方が必要です。
提出前の4つの確認軸
最後に、提出前の見直しを4つの問いにまとめます。
- 実体確認——会社資料は最新か。会社名・住所・代表者名の英語表記は全書類で完全に一致しているか
- 条件整合——職種・勤務地・期間・賃金は、雇用契約書・Job Order・Salary Breakdownで一致しているか。日本人との比較は説明できるか
- 契約関係——RAは全ページ署名済みで公証されているか。送出機関の資料は有効期限内か。追加認定なら追加書類はあるか
- 形式成立——翻訳者情報は記載したか。署名・押印は原本か。体裁(A4・クリップ留め・タイプ入力・並び順)は整っているか
これらをすべて満たしても、MWOの判断で差し戻しが生じることはあります。それでも、事前に確認しておけば不要な差し戻しは確実に減らせます。
まとめ
- 補正の原因は書類単体より「書類同士のつながり」にある
- 4軸で整理:会社の実体・権限/雇用条件と賃金/送出機関との契約/形式面
- 最多の論点は会社名・住所・代表者名の英語表記の揺れ。署名前に統一する
- 賃金は雇用契約書・Job Order・Salary Breakdownの3書類を同じ数字で貫く
- 体裁(A4・ホチキス不可・タイプ入力・原本署名)も要件。電子署名は不可
- 日本の法令上は適法でも、数字だけ見て不利に映る箇所は英文の補足説明を添える
- 提出前は「有無」ではなく「つながり」で読み直す
関連記事
MWO(駐日フィリピン移住労働者事務所)とは?雇用主が最初に知るべき手続きの全体像
MWO申請で必要な「公証役場での認証」とは?私署証書認証の流れ・持参物・費用を解説
MWO申請の雇用契約書(ANNEX-B)とは|日本の雇用契約書と何が違うのか
MWO東京とMWO大阪の違いとは?管轄・必要書類・様式の実務ポイントを整理
本記事は情報提供を目的としています。審査基準・必要書類・様式は変更されることがあるため、実際の申請にあたっては管轄のMWOの最新情報をご確認ください。

