「送出機関を通さずにフィリピン人を直接雇えないか|Direct Hire Banの原則と、例外が使えない理由」

DMW・法制度

「候補者とはすでに話がついている」「知り合いの紹介で、間に業者を入れる必要がない」「送出機関に支払う費用を抑えたい」——フィリピン人材の受入れを検討する過程で、送出機関を通さずに直接雇用できないかという相談は、かなりの頻度で出てきます。

日本側の感覚では、自然な発想です。雇用契約は企業と本人の間で結ぶものであり、間に第三者を挟む必然性が見えないからです。

しかし、フィリピンの制度は違う前提に立っています。この記事では、なぜ直接雇用が原則として認められないのか、そして例外が存在するにもかかわらず実務上それが選択肢になりにくいのはなぜかを整理します。

結論:例外はあるが、手続きが軽くなるルートではない

先に結論を述べます。

フィリピンでは、送出機関を介さない直接雇用(Direct Hire)が原則として認められていません。この原則をDirect Hire Banと呼びます。例外は制度上存在しますが、通常の企業が通常の採用で使えるものではありません。

そして最も重要な点はここです。例外が認められたとしても、手続きが簡略化されるわけではありません。むしろ逆で、企業側の負担は増えます。理由は後述しますが、送出機関が担っていた説明責任を、自社で引き受けることになるからです。

費用や手間を抑える目的で直接雇用を検討しているのであれば、その目的は達成されません。この点を最初に押さえておくと、判断が早くなります。

直接雇用は「近道」ではありません。制度の本道を外れた分だけ、自社で説明すべきことが増えます。

なぜ送出機関経由が原則なのか

フィリピンの労働法典(Labor Code)は、その第18条で、海外就労における直接雇用を原則として禁じています。これは古くから置かれている規定であり、例外的な運用ではなく制度の出発点です。

背景にあるのは、DMW(移住労働者省)とは何かで整理した考え方です。フィリピンは、自国民の海外就労を国家の管理下に置いています。募集、契約内容、労働者の保護、出国の許可——これらを一連の枠組みの中で処理する構造になっており、その枠組みに案件を接続する役割を担っているのが送出機関です。

つまり送出機関は、単なる仲介業者ではありません。制度上、案件を国家管理の回路に乗せる接続点として位置づけられています。募集取決め(Recruitment Agreement)の締結が手続きの入口に置かれ、その内容が細かく確認されるのは、この構造から来ています。

企業と本人の間で合意ができているという事実は、フィリピンの制度から見れば、手続きが不要になる理由にはなりません。その雇用がどのルートで処理され、誰が募集と書類を担い、労働者の保護がどう担保されるのか——問われているのはそちらです。

例外はどういう類型か

原則があれば例外もあります。ただし、例外の一覧を「直接雇用が自由にできる場合の一覧」として読むと、判断を誤ります。

制度上、例外として整理されているのは、おおむね次のような類型です。

  • 外交団や国際機関に関係する雇用
  • 政府関係の一定の雇用主
  • 当局が個別に認めたその他の雇用主
  • 専門職・技能職に関する一定の条件を満たす場合
  • 一定の親族関係や永住者に関わる場合

【要確認】例外類型の具体的な範囲と要件は、通達等により変わることがあります。

一般企業が通常の採用を行う場面は、基本的にここに含まれません。

とくに誤解されやすいのが、専門職・技能職に関する例外です。「技能の高い人材だから直接雇用でよいはずだ」と理解されがちですが、これは無条件の解禁ではありません。条件の確認を伴う限定的な特例であり、該当するかどうかは個別に判断されます。

例外に入っても、手続きは軽くならない

ここが本記事の核心です。

直接雇用の例外を求める手続きは、「送出機関を通さない許可をもらう」という単純なものではありません。実務上は、雇用契約の内容確認と一体で処理されます。つまり、例外に該当するかどうかと、その雇用条件が適正かどうかが、同時に見られます。

そこで確認されるのは、おおよそ次の4点です。

誰が雇うのか

会社の実体、代表者、事業内容、規模。

どういう条件で雇うのか

雇用契約の内容と賃金の内訳。

どういう職位なのか

職務内容と、その職位に求められる資格や要件。

その人をどう採用したのか

経歴、前職、そして採用に至った経緯。

この4点が、一つの案件として矛盾なくつながっていることを、自社の資料で示す必要があります。

送出機関経由であれば、募集と紹介の過程は送出機関が担い、その接続そのものが説明の一部になります。直接雇用ではそれがありません。「なぜこの会社が、この職位で、この人を、この経緯で採用するのか」を、企業が自力で組み立てて説明することになります。

書類の点数が多いという話ではありません。採用の構造そのものを、説明可能な形に整える作業が発生する、ということです。

もう一つの論点──企業側の履歴

例外の議論は、候補者や職種の話に集中しがちです。しかし実務では、企業側にもう一つ別の確認事項があります。

過去に送出機関と提携してフィリピン人材を受け入れていた企業かどうか、そしてその提携がいつ、どのように終わったかです。

公開されているFAQの整理では、過去に提携関係があった企業について、その関係の満了または解消から1年が経過していることが、直接雇用を検討する際の一つの基準として示されています。

【要確認】この基準は運用により変わる可能性があります。

したがって、「現在は送出機関と提携していない」という事実だけでは足りません。過去の履歴と経過期間の確認が先になります。また、実態としては提携の終了ではなく、別の送出機関への切り替えとして整理すべき場面もあります。

候補者が例外類型に当てはまるかどうかと、その企業が今このタイミングで直接雇用に進めるかどうかは、別々の論点です。

よくある間違い

本人と合意できているから手続きは不要だと考える

企業と本人の合意は、フィリピンの制度上、手続きを省略する理由になりません。

「専門職だから直接雇用できる」と判断する

候補者側の類型の話であり、企業側の条件は別に確認されます。

費用削減を目的に直接雇用を検討する

例外申請には別の準備と時間がかかります。目的が費用削減であれば、達成されない可能性が高くなります。

現在、送出機関との提携がないことをもって、すぐ直接雇用へ切り替えられると考える

過去の提携履歴と経過期間の確認が必要です。

例外なら出国手続きも簡略化されると考える

例外であっても、OEC(海外雇用許可証)の発給を含む出国の手続きは残ります。制度の枠組みから外れるわけではありません。

まとめ

Direct Hire Banは、「直接雇用は禁止」という単純な規制ではなく、フィリピン人材の海外就労を送出機関経由の構造で処理するという、制度の基本線を示すものです。

例外は存在しますが、それは原則が消えることを意味しません。そして例外に進む場合、送出機関が担っていた説明を自社で引き受けることになり、準備の負担はむしろ増えます。

特定技能などの通常の受入れ案件において、直接雇用が現実的な選択肢になる場面は限られます。直接雇用の可能性を検討する時間があるのであれば、適切な送出機関を選定する時間に充てるほうが、結果として早く確実です。

送出機関との提携を含む手続きの全体像はMWOとは何か、日本側との順序関係は日本側とフィリピン側、どちらを先に動かすかでそれぞれ整理しています。

本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の案件について直接雇用の可否を判断するものではありません。制度の運用および例外の要件は変更されることがあります。実際の検討にあたっては、MWO、DMWなど各機関の最新情報をご確認ください。

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