フィリピン人従業員から繁忙期に一時帰国を申し出られたら|「可否」ではなく「申出期限」を決める

定着支援

「来月、フィリピンに3週間帰りたいです」——年度で最も忙しい時期を目前にして、こう申し出られる場面は、フィリピン人材を受け入れる現場で繰り返し起きています。断れば本人の不満が残り、離職につながるかもしれません。認めればシフトが回りません。担当者は難しい判断を迫られますが、実はこの時点で、すでに選択肢がほとんど残っていないところに、この問題の本質があります。

この記事は、受入れ企業の人事・総務担当者と、登録支援機関・監理団体の支援担当者に向けて、一時帰国の申し出をどう扱い、どう仕組み化するかを整理するものです。

結論:決めるべきは「可否」ではなく「申出期限」

繁忙期に申し出を受けてから可否を考えている限り、この問題は毎年繰り返されます。決めるべきなのは、目の前の1件を認めるかどうかではなく、一時帰国はいつまでに申し出てもらうことにするのかという社内ルールです。そして、それを決めるのは繁忙期ではなく、年度の初めです。

理由は、日本側の都合だけの話ではありません。一時帰国は、社内の休暇管理だけで完結しない手続きだからです。フィリピン側にも、海外就労者が再び出国するための確認手続きがあり、状況によってはオンラインで完結せず、窓口での対応が必要になることがあります。つまり、直前の申し出は、本人の意思や会社の判断とは関係なく、日程的に成立しないことがあるのです。フィリピン側の手続きの内容については、フィリピン人従業員が一時帰国する前にで整理しています。

一時帰国は、繁忙期に断るかどうかの問題ではなく、年度初めに期限を決めておく問題です。

帰国の希望が集中する時期は、あらかじめ予測できる

一時帰国の申し出は、年間を通じて均等に発生するわけではありません。実務上、時期の偏りははっきりしています。

最も集中しやすいのが年末年始です。フィリピンではクリスマスから年始にかけての家族の集まりが強く重視され、この時期に合わせて帰国したいという希望が生じやすくなります。次に多いのが、家族の冠婚葬祭や、本人・家族の学校行事に合わせた帰国です。また、渡航から数年が経過した層では、在留期間の更新時期や契約の区切りに合わせて長めの休暇を希望する動きも見られます。

ここで重要なのは、これらの多くが事前に予測できるという点です。予測できるものは、事前に設計できます。自社の繁忙期が年末や年度末にあるのであれば、その重なりは毎年必ず発生します。毎年発生すると分かっていることを、毎年その場で判断しているのが、多くの現場で起きている状態です。

企業側が先に決めておく6項目

一時帰国のルールとして、少なくとも次の6つを事前に決め、文書化しておくと、その場の判断がほぼ不要になります。

① 申出期限

いつまでに申し出れば受け付けるのかを明示します。フィリピン側の確認手続きに要する期間と、航空券を現実的な価格で確保できる時期の両方を考慮すると、数か月前を目安に設定している例が見られます。具体的な日数は手続きの区分や個別事情によって変動するため、自社の過去の実績を見ながら設定するのが確実です。

【要確認】フィリピン側手続きの標準的な所要期間は、運用により変動することがあります。

② 同時に休める人数の上限

部署単位・工程単位で、同時期に何名までなら業務が回るのかを決めておきます。上限が明示されていれば、断る場面でも「あなただからダメ」ではなく「枠が埋まっている」という説明ができます。

③ 希望が重なったときの優先順位

先着順とするのか、前回の帰国からの経過期間を見るのか、事情の緊急度を考慮するのか。基準を先に決めておかないと、担当者の裁量に見えてしまい、不公平感が生まれます。決めた基準は本人たちにも共有します。

④ 有給休暇が足りない場合の扱い

希望する期間が有給休暇の残日数を超えることは珍しくありません。不足分を無給の休暇として扱うのか、そもそも認めないのか、就業規則との整合を含めて確認しておく必要があります。あわせて、その月の手取りがどの程度減るのかを申し出の段階で具体的に伝えることが重要です。帰国後の給与明細を見て初めて減額に気づき、そこから不信感につながる例は少なくありません。

⑤ 戻る予定日が遅れた場合の取り決め

現地での手続きや航空便の都合で、予定日に戻れないことがあります。誰にどの手段で連絡するのか、遅れた期間をどう扱うのかを、出発前に確認しておきます。

⑥ 帰国中の連絡方法と、期限の確認

帰国中も連絡が取れる手段を決めておきます。あわせて、在留期限や各種届出の期限が帰国期間中に到来しないかを、出発前に必ず確認します。ここは会社側でしか気づけない部分です。

「今回は難しい」と伝えるときの実務

申出期限を過ぎている、または枠が埋まっている場合の伝え方にも、いくつか実務上の注意点があります。

第一に、年次有給休暇の時季指定と、会社側の時季変更権に関わる論点が生じます。取得時期の変更を求められるかどうかは、事業の正常な運営を妨げるかどうかという判断を伴うため、就業規則を確認したうえで、社内の労務担当者や専門家に確認することをおすすめします。

第二に、伝え方です。実務上有効なのは、否定ではなく時期の調整として提示することです。「この時期は難しい」で終わらせず、「この時期であれば取得できる」「今回は2週間、次回は長めに」といった代替案をセットで示します。理由も、抽象的な業務都合ではなく、その期間の人員体制など具体的に説明したほうが納得を得やすくなります。

第三に、記録です。合意した内容は、口頭で終わらせず書面やメッセージで残します。必要に応じて、本人が理解できる言語での確認も行います。

よくある間違い

本人が直前まで言い出せない構造を放置している

「早く言えば断られる」と本人が考えていれば、申し出は必然的に直前になります。申出期限を設けることは、制限ではなく「期限内なら正面から相談してよい」という合図でもあります。

口頭の合意だけで進めてしまう

帰国期間、無給扱いの有無、戻る予定日。認識のずれは、ほぼこの3点で起きます。

家族の急病や不幸まで、平時のルールで処理してしまう

緊急時は別扱いとする例外規定を、あらかじめルールの中に書いておきます。例外がないルールは、最初の1件で崩れます。

一人だけ特例を認めてしまう

運用の一貫性が崩れた瞬間に、基準そのものが機能しなくなります。特例を認めるのであれば、なぜ認めたのかを説明できる形にしておく必要があります。

まとめ

繁忙期の一時帰国の申し出は、その場の判断で乗り切る問題ではありません。帰国希望の時期はある程度予測でき、フィリピン側の手続きにも一定の日数がかかる以上、年度の初めに申出期限と運用ルールを決めておくことが、企業にとっても本人にとっても現実的な解決策になります。ルールがあれば、断る場面でも説明ができ、認める場面でも段取りが崩れません。

なお、雇用そのものが終了する場面での帰国は、一時帰国とは扱いが異なります。手続きの整理は退職・帰国・雇用終了時にやることを、定着支援全体の考え方はフィリピン人材が定着しない本当の理由をあわせてご確認ください。

休暇の運用は、生活面の設計全体とつながっています。共同生活のルールについては寮トラブルを防ぐには、無給期間が生じることによる収支への影響については金銭トラブルをどう防ぐかで扱っています。

本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の労務判断や手続きを保証するものではありません。制度の運用は変更されることがあります。実際の手続きにあたっては、各機関の最新情報および自社の就業規則をご確認ください。

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