MWO(駐日フィリピン移住労働者事務所)への申請準備を始めると、必要書類の中に「登記簿謄本の英訳」「納税証明書の英訳」といった項目が並んでいることに気づきます。「翻訳会社に頼まないといけないのか」「株式会社はCo., Ltd.でいいのか、Kabushiki Kaishaなのか」「住所はどの順番で書くのか」——申請書類を作り始めた担当者が、必ず最初に迷うポイントです。
そして実は、英訳で本当に問題になるのは、個々の訳語の巧拙ではありません。この記事では、MWO申請で英訳が必要になる書類、翻訳者の要件、そして補正を防ぐ表記統一の実務を整理します。
結論:補正の原因は「誤訳」ではなく「表記ゆれ」。基準表記を先に決める
- MWO申請の英訳で補正につながるのは、単発の誤訳よりも、複数の資料を見比べたときに同一の会社・同一の人物として読めなくなる状態です。登記簿の英訳では「ABC Co., Ltd.」、営業許可証では「ABC Company Limited」、契約書では「ABC Corporation」——こうした揺れが重なると、英語しか読まない審査側には別法人のように見えます。
- したがって実務の出発点は、翻訳作業ではなく、会社名・住所・代表者名・役職名の「基準表記」を1つに決めることです。決めた表記を、全書類・全英訳で貫きます。
- 翻訳者については、プロの翻訳会社が必須とされているわけではありません。社内での翻訳も実務上行われています。ただし翻訳者情報(氏名等)の体裁を整えることが求められます。要確認
英訳の目的は「きれいな英語」ではなく、「英語だけを読んでも同一の会社・同一の人物だと分かること」です。
何を英訳するのか
日本語で発行される公的書類・社内資料は、英訳を添えて提出します。代表的なものと、その役割は次のとおりです。
- 登記簿謄本(履歴事項全部証明書):申請主体の法人確認。全書類の会社情報の「基準点」になる最重要の英訳です
- 納税証明書・納税申告書:事業実態・納税の確認。法人名・所在地が登記簿英訳と一致していることが重要
- 営業許可証(該当業種の場合):事業の適法性の確認。登記簿の「目的」との整合が見られます
- 代表者の本人確認資料(パスポートがない場合は運転免許証):代表者名のローマ字表記の基準になります
- 比較対象となる日本人の給与明細:賃金の同等性確認。賃金用語がSalary Breakdown・雇用条件書と揃っている必要があります
- 年間休日カレンダー(変形労働時間制などの場合):労働条件の補足
- 在職証明書・健康保険加入資料など:案件により追加
どの書類が必要かは申請区分(特定技能/技能実習/Professional Skilled Worker)と管轄(東京/大阪)で異なるため、必ず管轄MWOの最新のチェックリストで確認してください。
誰が訳せるのか
企業が最初に迷う問いですが、MWO申請の英訳は、プロの翻訳会社による翻訳が必須とされているわけではありません。実務では、社内の担当者が翻訳するケースも広く行われています。
ただし、体裁として翻訳者の情報(氏名など)を付すことが求められます。誰が訳したか分からない翻訳文書は、資料としての信頼性が弱くなるためです。要確認翻訳証明の要否・体裁は管轄MWOの最新要件で確認してください。
注意したいのは、翻訳者が複数いる場合や、時期を分けて翻訳する場合です。人や時期が変わると表記ルールがばらつきやすいため、翻訳を始める前に、次の基準表記を決めて共有しておくことが重要です。
表記統一の実務:先に決める4つの基準表記
- 会社名。「株式会社」をCo., Ltd.とするか、Kabushiki Kaishaを残すか、方針はいくつかあります。どれを選んでも構いませんが、登記簿英訳・営業許可英訳・契約書・雇用条件書のすべてで同じ表記にします。スペース、コンマ、「LTD.」のピリオドの有無といった細部の揺れも、積み重なると別法人に見える原因になります。
- 住所。日本語住所を英語順(番地→町名→市区→都道府県)に並べ替える際、丁目・番地・号や建物名の扱いが資料ごとにずれがちです。本店所在地の英語表記を1つ確定させ、全資料でコピー&ペーストで使い回すのが最も安全です。登記上の所在地と就業場所が異なる案件では、どちらの住所かを混同しないよう特に注意します。
- 代表者名。氏名の順序(姓が先か名が先か)、長音の扱い(OHNOかONOか)で揺れやすい部分です。パスポートの表記を基準にし、登記簿英訳・署名欄・本人確認資料の英訳をすべて揃えます。
- 役職名。代表取締役をRepresentative Directorとするか、President、CEOとするかも揺れどころです。表記がばらつくと「誰が法的な署名権限者なのか」が読み取りにくくなります。1つに決めて貫きます。
主要な訳語の目安
公定訳があるわけではないため、意味が自然に伝わる表現を選び、全書類で統一することが訳語選びより重要です。実務でよく使われる訳語の目安を挙げます。
| 日本語 | 英訳の目安 |
|---|---|
| 履歴事項全部証明書(登記簿謄本) | Certificate of Registered Matters |
| 商号 | Company Name |
| 本店所在地 | Head Office Address |
| 代表取締役 | Representative Director |
| 目的(登記の事業目的) | Business Purposes |
| 設立年月日 | Date of Establishment |
| 運転免許証 | Driver’s License |
| 有効期限 | Date of Expiry |
なお、登記の「目的」は広めに書かれていることが多い項目ですが、意訳して実態以上に事業を広げる訳し方は避けます。原文に忠実に、が原則です。
補正になりやすいパターン
- 会社名の英訳が翻訳資料ごとに異なる(最頻出です)
- 住所の並び順・建物名の扱いが資料ごとに違う
- 代表者名のローマ字が登記簿英訳と署名書類で一致しない
- 役職名がPresident/Representative Director/CEOでばらつく
- 賃金用語(基本給・手当・控除)の訳が、給与明細英訳とSalary Breakdown・雇用条件書で揺れる
- 古い登記簿を前提に英訳し、代表者変更・移転の前後の情報が混在する
6番は、会社情報に変更があった案件で特に起きやすい論点です。詳しくは会社の情報が変わったときのMWO手続きをご覧ください。
提出前チェックの順序
翻訳が済んだら、1枚ずつではなく資料を横断して確認します。順序は次のとおりです。
- 基準表記の確認:会社名・住所・代表者名・役職名の英訳表記が1つに決まっているか
- 会社資料:登記簿・納税証明・営業許可の英訳が基準どおりか
- 身分証資料:氏名・住所の表記が会社資料とつながるか
- 賃金用語:給与明細英訳・Salary Breakdown・雇用条件書で訳語が揃っているか
- 補足資料:年間休日カレンダー等が雇用条件書と整合しているか
- 形式面:翻訳者情報の体裁が整っているか
表記ゆれを含む差し戻しの全体像は、MWO申請で差し戻しになる理由で整理しています。
よくある間違い
- 「プロ翻訳でなければダメ」と思い込み、費用と時間をかけすぎる。必須なのは翻訳の質より表記の一貫性です。
- 基準表記を決めずに翻訳を始める。あとから揃える手戻りが最も時間を食います。
- 書類ごとに別の人が訳し、表記ルールを共有しない。
- 「読めば分かる程度の違い」と表記ゆれを軽視する。審査側は英語だけで同一性を判断します。
- 過去案件の英訳をコピペし、変更前の会社情報が混入する。
まとめ
MWO申請の英訳は、「基準表記を先に1つ決め、全書類で貫く」——これがすべての土台です。プロ翻訳は必須ではなく、訳語に公定訳もありません。審査側が見ているのは、英語だけを読んで同一の会社・同一の人物・同一の条件として一貫して読めるかどうかです。
翻訳を「1枚ずつの作業」ではなく「申請全体の情報を英語で揃える作業」と捉え直すと、補正は大きく減らせます。受入れ手続き全体の流れはMWO手続き完全ガイドをご覧ください。
本記事は情報提供を目的とした一般的な整理であり、個別の手続きの可否や必要書類・様式を保証するものではありません。英訳が必要な書類の範囲・翻訳者情報の体裁などの運用は、申請区分・管轄により異なり、変更されることがあります。実際の手続きにあたっては、管轄のMWO(駐日フィリピン移住労働者事務所)の最新情報を必ずご確認ください。

